英『ガーディアン』誌の移民担当記者が精力的な取材に基づいてまとめた1冊。日本語タイトルは『シリア難民』となっているが、原著タイトルは『The New Odyssey: The Story of Europe's Refugee Crisis』で内容はシリア難民に限らず、アフリカや中東のさまざまな地域からヨーロッパを目指す人々を扱っています。
全体の半分は、シリア難民のハーシム・スーキさんがヨーロッパを目指す道のりを著者が取材したものでとても臨場感にあふれています。同じEU圏内でも難民への対処は本当に国ごとに大きな違いがあり、永住権や華族の呼び寄せ可否などさまざまなファクターを加味して、目指す国を決めていることがよくわかります。
また、日本語タイトルのとおり、自分の感覚でも現在のヨーロッパと難民の問題はシリアが大部分を占めているように思ってしまっていました。しかしそれ以外にもアフガニスタンやエリトリア、ソマリアなど政情不安を抱える多くの国々から、険しい山道やサハラ砂漠等多くのハードルを越えてヨーロッパを目指す人々がいることがよくわかりました。これら、ほかの国々からヨーロッパを目指す人々の様子を含めて、本書の残り半分で描かれています。
ヨーロッパ(のうちの多くの国)が難民がやってくるのをいかに阻もうとしても、自国が非魅力的な国であると強く発信しようとも難民たちはやってきます。その理由は著者が本書中に何度も取り上げていますが「ほかに選択肢がないから」。自分の国にとどまっていても暮らしていけないし、それどころか死の危険もある。それであれば、いくら命がけでも、一抹の希望をかけてヨーロッパを目指す。そういった人々の気持ちが痛いほど伝わってくる1冊です。