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ヒトは生物学的見地から見れば41歳が寿命であり、現代人は膨大なエネルギーにより生かされている「人工生命体」だ。年齢を重ねた著者が人間にとっての寿命を思考。「私」だけの幸せを追求する現代社会にも一石を投じる異色作。
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Posted by ブクログ
生物学者本川達雄さんの本は、示唆に富み、とても面白く、考えさせられる本が多いです。「人間にとって寿命とはなにか」(2016.1)も面白かったです。これまでの著作の集大成のような感じがします。息を1回吸って吐く間に心臓は4回打ち、腸がジワッと1回動く間に心臓は11回打ち、心臓から血液が出てまた戻ってく...続きを読むる間に心臓は80回打つ。これは、ゾウもネズミも私たちもみんな同じ。そして、心臓が15億回打つとみんな死を迎える。心周期(心臓1拍の時間)は、鼠0.1、猫0.3、人1、馬2、象3、鯨9(秒)
著者は生物学者だが、タイトル通り哲学的な話題を物理学なども幅広く交えて「現代人の生き方」を問いかける内容。 本書を書いた時点で68歳という年齢が大きく影響しているであろう。「エネルギーを大量に使って時間を買っている」現代の時間の流れを批判的に捉えている。著者の専門分野であるナマコの他、様々な動物の...続きを読む生態や今より機械に囲まれていなかった時代の日本人の生活などと比較し、システムを作る技術者(やそれを商売にする人達)によって生物としての人間本来のリズムが妨げられていると述べている。 やや極論に走っているところも感じられるが、資本の論理に世の中全体が巻き込まれているという批判は賛同できる。
今の会社への転職をした時期に出された、「長生きが地球を滅ぼす」という衝撃的なタイトルで本を出された、本川氏による最近かかれた新書本です。 人類本来の寿命はせいぜい40歳程度ですが、エネルギーを多く利用することで寿命を伸ばしているという主張です。歴史的に振り返ってみると、江戸時代の頃の寿命は乳児も含...続きを読むめればその程度だと思われますし、現在でもある地域での寿命は50歳以下と聞いたことがありますので、日本の現在の寿命がいかに長いかというのがわかります。 子供は親と完全に似ていない(クローン)でなく、少し変えているのは、急激な環境変化に耐えられる(絶滅しない)という考え方は興味深かったです。組織でも、同じ人ばかりだと確かに効率は良いかもしれませんが、環境変化が起きた時に脆いということでしょう。色々と考えさせてくれる本でした。 特に、年を取ればエネルギー消費量が下がり、同じ時計の時間内になす仕事量が減る。あまり仕事をしていていないのに、すぐに時間が経ってしまった、時間が速く過ぎたと感じる。時間とは、その流れの中にいるときと、あとから振り返って思い出すときとでは、感じる速さが逆になる。(p232)、この部分は今の自分を表現しています。 以下は気になったポイントです。 ・動物の時間も人間の時間も、時間の進む速度はエネルギー消費量に比例すると考えられる。つまり、あまりエネルギーを使わない「ナマコ」の1日は、現代人の1分にしか相当しない(p49、50) ・額に汗して働き、脳みそを絞って考えて初めて、自分のやったことが身につく(p51) ・生態系サービスは、人間にとって重要であり、生物多様性が高いと、生態系サービスは良くなっているので、生物多様性は大切(p76) ・食べられる植物は8万種ほど知られているが、全地球で必要とされる栄養の95%は、たった30種類の作物から得られている(p77) ・生物は続くためには、克服すべき壁が2つ存在している。1)熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)の壁、2)環境が変化する壁。この2つに対処するやり方を生物は身につけ、40億年近く絶滅せずに続いた(p85) ・機能がきっちりと続いていくような建物の建て方が、伊勢神宮である。20年毎に隣の敷地にそっくりのものを建て替える。子供を作ることが式年遷宮に対応する。子供というコピーをつくることで体を更新しながら生物は続き、熱力学第二法則の壁を解決する(p87、88) ・今の自分とはちょっとだけ違う様々な子を作っておこう、そうすれば新しい環境中でも生きていけるだろう、というのが生物のとった戦略で、これが有性生殖。多細胞生物は、この方式である(p91) ・有性生殖の場合、個体は父親由来と母親由来のものとの2セットの遺伝子があり、その組の間で遺伝子組み換えが起こる。無性生殖を続けると、有害遺伝子を持った場合は時間と共に有害遺伝子がたまる一方で、最終的には絶滅する運命にある。有性生殖の場合は、それを取り除く機構を持っていることになる(p92) ・相手の好きな面だけを見て付き合うとは、相手を自分の好きを満足させる消耗品として見ている、搾取の対象で一方的な関係しか結べない。相手を独自の価値をもつ存在として認める付き合いをすべき(p113) ・ヒトは心臓一拍の時間は約1秒だが、ハツカネズミは0.1秒、つまり、時を数えるカウンターが違う。ハツカネズミと、ヒト、ゾウでは、時間は違う(p151) ・心臓の時間が体重の0.25乗に比例している、時間の増え方は、体重の増え方ほど大きくない。0.25乗とは、体重が10倍になると、時間が約2倍なるという関係である(p153) ・動物の時間は種によって大いに異なるが、心臓を時間のカウンターにすると、時間に共通性が出てくる。つまり、心臓が15億回打つとみな死を迎える(p154) ・エネルギー消費量は、体重の0.75乗に比例している。つまり、体重が10倍になると、エネルギー消費量は5.6倍になる。エネルギー消費量の増え方は、体重の増え方ほど大きくない(p158) ・体重1キロ当たりのエネルギー消費量は、体重のマイナス0.25乗に比例している、体重の大きな動物ほど、体の割にはエネルギーを使わない、大きな組織の中の構成員はサボっているとも言い換えられる(p160) ・小さいものでは、体積当たりの表面積が大きくなる。茶碗のお湯と風呂のお湯は、茶碗の方がすぐに冷める。こうなるのは、茶碗の方が堆積辺りの表面積が大きいため、熱が表面からどんどん逃げる(p164) ・ゾウの細胞がネズミの細胞ほど盛んに働くと、熱が体内にこもって体温がどんどん上昇する。自分の出す熱でステーキになってしまう、ゾウの細胞はたとえ働きたくてもネズミの細胞ほどには働けない。サボっているのではなく、働くことを自粛している(p165) ・ネズミもゾウも、一生という時間で使うエネルギーは、30億ジュールで同じ。ただし、ゾウは70年かけて仕事をするが、ネズミは2-3年で終える。ネズミは短いが、ものすごくエネルギーを使いながら、駆け抜けるような人生を送っている。時間の密度が濃い(p169) ・時計の時間だけを使って生物のことを考えるから、時間の密度を考慮する必要が出る、もともと生物により時間の速さが違うのだと考える方がすっきりする。どんどん仕事をやっているとは、生きているペースが速いわけで、これを時間が速いと言っていい(p170) ・昆虫は、成長段階で異なる時間を使い分けている。飛んでいるときは、飛ばない時の170倍ものエネルギーを使っているが、幼虫の時間はゆっくりで、成虫の時間は速いと思われる(p172) ・体を新品につくりかえるたびに(伊勢神宮方式)、時間がくるっと元に戻る。これが、時間の速度がエネルギー消費量に比例するかを考えられる(p175) ・社会生活の時間の速度もエネルギー消費量に正比例すると仮定すると、現代人の生活時間は、縄文時代の30倍速くなっている(p181) ・人間の体重当たりのエネルギー消費量は、20歳までは減少する(赤ちゃんと比べて3分の1)が、それ以降は徐々に下がる(p232) ・年を取ればエネルギー消費量が下がり、同じ時計の時間内になす仕事量が減る。あまり仕事をしていていないのに、すぐに時間が経ってしまった、時間が速く過ぎたと感じる。時間とは、その流れの中にいるときと、あとから振り返って思い出すときとでは、感じる速さが逆になる。(p232) ・老人の時間はエネルギーをあまり使わずゆっくりであり、その期間にやったことが少ないからこそ、振り返るとあっという間に経ってしまう(p233) ・時間が違うとは、生きている世界が違うと言ってもいいこと。その時間・その世界の中で一番いい生き方をすべき。年代による時間までもが異なるので、その年代年代の価値観をもって生きるべき(p234) ・ヒトの場合は、15億回心臓が打つと、41.5歳。縄文時代の31歳から、江戸時代:45歳、明治:43歳、昭和22:52歳、現在:80歳と寿命が長くなっているのは、医療の進歩のおかが(p235) ・現代人は、エネルギーを使って時間を買い取っている、その買い取り方には、1)便利な機械をエネルギーを使って動かして仕事を早く済ませて、自由に使える時間を手に入れる、2)長い寿命がある(p237) 2016年4月9日作成
動的平衡の隣においてあったから、切り口の違う話も読んでみようと思い手に取った。まさかナマコ研究者の本とは。笑 機能の継続性のための遺伝、環境の変化に対応するための有性生殖というのは納得感あった。ちょっとげんだい社会への批判はくどいかな。 ナマコは特殊に伸び縮みする皮によって、エネルギー消費が極端...続きを読むに少ないから餌を探すための脳もエネルギーを送る心臓もいらない 省エネになればなるほど皮が厚くなって美味しくなくなるから安全になる エントロピー増大がある以上材料の継続は難しいから機能の継続を図るのでは? しかも全く同じ機能の伝達では環境の変化に対応できないから有性生殖が発達したのでは? 大きいほど体積辺りの表面積が小さいからねつがたまりやすい。だから動きがのろい
名著「ゾウの時間ネズミの時間」の著者による一冊。講演録五篇に手を入れたものだそうで、タイトルから受けるイメージとはちょっと違う内容のように思う。 著者がナマコの研究者だとは知らなかった。第一章はそのナマコの生態についてのお話で、正直ここはツライ。ちっとも活動しないナマコを見ているうちに生物の「時間...続きを読む」について考えるようになったそうだが、やはりそう言われてもあまり興味の湧くものではないなあ、ナマコって。 第二章以降は、いくつかの切り口で今の社会のあり方について語られている。すごく目新しいというわけではないが、なるほどなあと思われるくだりがあちこちにあって、面白く読んだ。「現代人は膨大なエネルギーを使って時間を速くしている」「好きなものだけを集めて世界を作れば、それはご都合主義のうすっぺらなものになり、当人もうすっぺらな存在になってしまう」などなど。若干説教臭が漂うけど、エラソーな感じはないところが良いです。
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