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好評の久生十蘭短篇傑作選、今回の七冊目で完結。「風流旅情記」など傑作八篇。帯推薦文は、米澤穂信氏「透徹した知、乾いた浪漫、そして時には抑えきれぬ筆。十蘭が好きだ。」
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Posted by ブクログ
7冊で十蘭傑作選は、打ち止めのようだ。7冊目も戦記、ナポレオンもの、時代もの等盛り沢山で楽しめた。巻頭の「風流旅情記」は、海軍報道班員になった画家の目からみたニューギニア戦記。徴用漁船による航海、行きついた島の守備隊の状況が凄まじい。去年刊行された十蘭の「従軍日記」の体験と一致するから、背景は事実に...続きを読む基づいている。戦後すぐに、このような悲惨な体験を笑いのめす十蘭の根性は据わっている。7冊すべて堪能した。
しみじみと印象に残ったのは、太平洋戦争を描いた「風流旅情記」。 主人公の五流画家・三河万蔵は報道班員として、民間の徴用船に乗り込み、日本の勢力圏の南端にあるニューギニア・アルー諸島をめざす。 彼がこの島をめざすのは、鶏の卵を人肌で抱いて孵化させた兵士がいるから、という一風変わった理由のため。 乗り込...続きを読むんだ輸送船は鉄屑みたいな貧相な代物で、乗組員も曲者揃い。海底を自由に歩ける八重山の少年、鉄兜とふんどし一丁で敵の機銃掃射と戦う野武士みたいな男、盗賊の親玉みたいな船長。 この船のくだりだけで、もう十分おかしくて笑える。だいたい、主人公の名前自体が三河万歳と一字違いで、いかにも人を食っている。 島にたどり着いてからのくだりも、ユーモラスで楽しい。 が、読み終えた後はどこか澄んだ切なさが心に残る。 確実に待ち受けている死を覚悟しながらも、のどかに笑いあい、決して明るさを忘れない兵士たちはかなしい。 この話は、自身も戦時中報道班員として南方に派遣された十蘭の体験が凝縮されているのかもしれない。 そのほかには、ナポレオンのロシア遠征、マリーセレスト号を筆頭に国内外で起こった謎の軍艦失踪、チャップリン「殺人狂時代」のモデルになった殺人犯を題材にした猟奇事件など、歴史的事象をクールに追ったドキュメンタリーが多い。 なかでも「カイゼルの白書」は、暢気で頓馬なムードがくすくす笑いを引き起こす名品。 掉尾を飾るのにふさわしい、充実の一冊だった。
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