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Posted by ブクログ
3年前に失踪した夫が帰ってきた。だがその夫の身体は遠い深い海の底で蟹に食われてしまったという。3年かけて妻のもとに帰ってきたその道を、今度は2人で遡って旅をする。それは過去を遡る旅となり、後悔も、悲しみも、痛みも包み込んで、たどり着くであろう未来への旅路となっていく。
死と生の境目ははっきりとした壁に遮られたものなんかではなく、ほんの少しだけ開かれたドアの隙間から漏れてくるよう光のように交わることがあるのだろう。その光は太陽のような燦々とした光ではなく、朧げで儚げな月の光のようなものだけど。水が高きから低きへ流れて、川となり、海について、また水蒸気となって天に上るように、人の命も流れ流れて巡っているのかもしれない。
人の死という避けえない悲しみを、こんなふうに安らかに静かに受け入れることが出来るならどんなに救われることだろう。それは一瞬にして出来ることではなく、時が味方となって成し得ることなのだろう。
そんな感慨にふけるのでした。
Posted by ブクログ
ファンタジーであり不条理であり寓話でありロードムービーでありコメディでありハートウォーミングものでありホラーでもある。
浅野忠信はもとから魂の抜けているような顔。なのにチャーミングという。
ばっちりの演技。(空も風も痛いという凄まじい台詞は、そこらへんの役者には言えないだろう。)
深津絵里は静かに悲しみを持続しているような顔。
だからこそ笑顔や笑い声が嬉しい。
怒った手つきで白玉団子を作るとか、いい。
なにやかやと手仕事をする所作も素敵だ。
蒼井優の自信たっぷりのしたたか悪女。
ほか、小松政夫をはじめとして「いいツラ構え」のおっさんたち。
旅は4つに分割できると思うが、「自分の死に気づかない人」と生者のそれぞれの在り方を見届けることで、自分たち夫婦の在り方も決着をつけようと決意する。
死者の未練、生者の執着、それぞれがお互いを引き止めたり引っ張ったりする。
この均衡不均衡は、生者死者だけでなく夫婦の関係性でもあるのだ。
死後でも「愛の確認」をしなければならないとは。(恨みの幽霊は存在しない。)
そして普段の生活では自分に見せてくれなかった「別の顔」を見て、理解を深めていく。
生死の境界や通り道は、黒ではなく白や霧や湯気のイメージ。
全編仰々しいとともに美しく幸福なオーケストラ。
これも清節と思えてしまえるくらいには盲目的信者である。
しかし、ここまで不穏なのに幸せな感動に浸れるのは、もう清でしかありえないのではないか。
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と、映画版で書いた。
抒情的な怖さを醸し出す設定や小道具や人物や背景やは清の工夫なのだろうとてっきり思っていたが、
実は原作をかなり忠実になぞっていた。
ということは「湯本香樹実の黒沢清性」。変な表現だが。
「死者は断絶している、生者が断絶しているように。死者は繋がっている、生者と。生者が死者と繋がっているように」
という台詞なんて、「回路」に出てきてもおかしくない。
死者が自分の死に気づいていなかったり、生者に交じっていたりするところも。
むしろ映画のほうが、ピアノ勝手に触らないで! や、今度結婚するんです、ふふふ不敵な笑み、や、殴り合い、などなど、エモーショナルな場面が多くなっているほど。
つまり原作は相当に淡々としている。それでいての叙情だから、良作なのだ。
また小説で気づいたのは、決して夫婦の話に限定していない、むしろ親と子という軸が盛り込まれた作品なのだということ。
あとは全編を通じて水の気配。これは小説ならではの巧みな技巧だ。
Posted by ブクログ
3年前に失踪した夫が突然帰って来る。
「これでもいそいだんだ」
「ずっと歩いてこなくちゃならなかったから」
「俺の体は、とうに海の底で蟹に喰われてしまったんだよ」
死後、瑞樹のもとに帰って来るまでの旅路を遡る旅。
それはどこかと現実の狭間。
生きている人と、そうではなくなった人が生活している。
夫がどうしてそうなったのか、何が起きたのかなどは一切明かされない。ただ二人はいつか別れが来ることを知っており、それに怯えながら旅をする。
生前の夫があまりにクズで、二人の間に愛があったなんて到底思えないけれど、死んでから旅をしたいと思った相手は瑞樹なんだろうな(いや待て!複数の浮気相手ともそれぞれに旅をしてるかもしれぬ!)
話は終始、静謐で美しい。
ラストの素晴らしさに湯本文学を見る。
Posted by ブクログ
3年失踪していた夫が突然帰ってきたらどんな気分だろうか。
私なら初めは帰ってきてくれた嬉しさがあり、落ち着いて来ると怒りが湧いてくるだろう。
主人公の瑞希は、待ち焦がれた夫優介の突然の帰りを受け入れるが、、、
瑞希の立場に立って読み進めて行くうちに、自分もあてもない旅をしているような感覚になっていった。
この旅は瑞希にとっての心の慰めである。
瑞希の人生の終わりはまだ先にあり、優介への執着と決別するための旅なのだろう。
物語は始終陰鬱ではあるが根底には瑞希の心の再生が見え隠えする。
読後感は生と死の間を行き来する表現に深みがあって、悪くない。
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