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自国製品が世界を席巻し、経済的に大きく躍進した韓国。しかし、急激な発展によって他の先進国以上に多くの課題を抱え込んだ。少子高齢化、貧困問題、社会保障制度の未整備……。韓国が直面する問題に対して、金大中、盧武鉉、李明博ら革新、保守それぞれの歴代政権は、いかなる結果をもたらしたのか。そして朴槿恵の舵取りによって、この国はどこに向かうのか。指導者と政策を通し、隣国の姿を浮き彫りにする。
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Posted by ブクログ
面白かった。韓国ってそれなりに発展しているけど、どこか不安定というイメージがあるものだけど、金大中、廬武鉉、李明博、朴槿恵という4代の大統領政権下での、特に貿易・経済政策、社会保障・福祉政策をしっかり分析的に解説している。 それによると、韓国という国そして各大統領ともまったく無策だったりあさってを向...続きを読むいた政治が行われていたわけではない。停滞も後退もせず、歩幅は小さいけれど着実に前進しているように読めた。韓国びいきの私としては溜飲が下がる。 大きな前進とならないのは、大統領が大きな権限をもつものの1期5年で交代していくためか。そのうえ、ダイナミックな変革を目指すためにこの期間ではなし遂げにくいということもあるか。 とはいえ、決して無謀で国民を無視した変革ではなく、ダイナミックな動きを好むのが韓国の国民性に合っているのだと思う。考えあぐね石橋をたたいて渡らない日本の国民性とは対照的に、止まっているくらいならとにかく動くことを国民があっけらかんと許す、というか選んでもいると思う。 その好例が金大中政権下での早期貿易自由化交渉で、早々に水産業を自由化させてしまったこと。過程においては利益団体に自由化反対の言質をとろうとする行政の動きもあったが、利益団体が特に反対しなかったという痛快さ。その裏には、漁で食えなくなったらほかの仕事をすればいいという労働力の流動性の高さがあるという。 また、一つの分野に専心せず多くの事業をもつ財閥などは、一見合理性・効率性に欠けているように思えるが、一つの事業分野が衰退すれば別の事業に注力分野を移すという生産要素の移動可能性が高いととらえることもできる。その変わり身の早さで韓国は世渡りしてきたということであり、このあたりは新大久保の店の変わりようや業態転換のあり方を見てもうなずける。 遅れている韓国はまだ追いついてこない、また追いついてこないと日本が思っているうちに、韓国はまったく違う道を進み、いつか気づいたら日本より先を行っていたという日は来るのでないかと思っているのだが、その思いをまた強くさせるような言質になる一冊だった。衰退著しい日本の地方なども、労働力の流動性や産業の移動をうまく使って生き延びていくことができるのではないだろうか。 この本は2014年に出ているので、朴槿恵政権に関しては政権序盤までしか触れていない。その後、一騒動あったわけだがそのあたり、この著者ならどう分析するだろう。
本書は、過去約20年にわたる韓国の歴代政権(1998年の金大中政権から、盧武鉉政権、李明博政権、朴槿惠政権の4つの政権)に焦点を当てて主に福祉政策と通商政策の変遷を詳述している本でした。著者も本書内で述べているように、福祉と通商政策(FTA)をあわせて分析しているという意味で、面白い視点だと思いまし...続きを読むた。確かにギデンズの「第三の道」アプローチはこの両者を包含することが可能ですし、韓国の場合は福祉だけでなく通商政策もイデオロギー対決(保守vs.進歩)になるというのは興味深かったです。 全般を通じて面白いと感じた一方で、細かい点では首をひねる点もありました。1つ目。前半部分で、雇用者と労働者の利益が相反している状況を「囚人のジレンマ」であると表現していますが、これは「囚人のジレンマ」ではありません。ゲーム理論で言われる「囚人のジレンマ」は同じ立場の囚人(共犯者)が別々の独房に入れられて、互いの情報がシャットアウトされた場合に、(彼らにとって)最善の策である「お互いが口を割らない」という結論に至らず、どちらかが自白をしてしまうというジレンマを理論的に解説しているもので、同じ立場にある人々の「情報の非対称性」がポイントです。雇用者と労働者のように立場が全然異なる人の間のジレンマを表現するものではありません。 もう1つ。なぜ韓国はFTAを推進しても利益団体・業界団体が強く反対しないか、という理由を、労働の流動性が高い点に求めています。つまりあるFTAによって自分が所属している産業が危ういと思ったら転職する文化なので、弱い産業の人々が必死に抵抗しない、ということなのですが、これは確かにあり得ると思いつつ、じゃあなぜ米国は自動車産業団体などロビー活動がすごいのか、というのが説明できません。米国は韓国以上に労働の流動性が高いですから。 ただし、全般的には、福祉政策と通商政策をあわせて分析するなど、極めて興味深く感じましたし、韓国の政治経済に興味がある人に本書はお勧めできると思います。
先進国となった韓国は、日本と同様に少子高齢化、経済格差、グローバル化の問題に直面している。金大中、盧武ヒョン、李明博、朴槿恵の大統領がどのような制約で何をなしてきたかを分析している。李明博までは、進歩派と保守派のイデオロギー対立が目立っていた。韓国は日本と違って労働流動性が高いのだな。社会福祉などは...続きを読む、両国とも世界のうちでは下位である。韓国は日本を映し出す鏡でもありそうだ。
正直に言えば、自分には難しかった。 90年代以降の韓国の福祉政策を分析した本。 かつては家族の相互扶助努力によって表面化してこなかった格差が、新自由主義的なものに変わっていったのだが、その間にどのような力が働いていたのかを分析した、ということであろうか。 社会民主主義的な福祉政策を志向しながら、それ...続きを読むが果たせなかった道筋であるようだ。 そこに、保守派VS進歩派のイデオロギー対立を重ねて分析しているのが眼目であるらしい。 一般的に言われていることと違うこともあって、はっとすることもあったけれど…。
嫌韓の書籍が多い中、金大中、廬武鉉、李明博という3代の大統領の福祉政策と経済政策を中心に、2代の進歩派と1代の保守派の大統領の政策が、当時の大統領がおかれた状況の結果、どのような政策をとらざる得なかったかを多くの資料や論文からまとめている。 結果として、現在の朴政権が抱える問題もまた歴代政権の置き...続きを読む土産として、最終章で明確になっているのが興味深い。歴史という大きな枠で物事を見ることの大切さを感じさせる本だった。内容が濃いだけに読むのに時間がかかってしまった本だった。
民主主義といいつつ、社会主義的要素も大きいと感じられる政治体制だということがよくわかる。日本以上にイデオロギー対立の構図が鮮明だ。
韓国の政治上の問題点を挙げた本。金大中、盧泰愚、李明博、朴クネの4人の大統領の取り組み、特に社会保障政策と新自由主義に基づく経済政策に焦点を当て、なぜ、政策がうまくいかなかったかについて意見を述べている。保守派、進歩派の対立、湖南、嶺南など地域的な対立、年代の対立、貧富の格差の対立などが複雑に絡み合...続きを読むい、時の政権に影響を及ぼしている。この20年の状況から言えることは、今後も韓国は難しい状況が続き、なかなか問題解決できないと言うことだと思う。 「若年世代が進歩派政党を支持し、朝鮮戦争を経験した高齢者世代が保守派政党を支持する傾向が強い」p8 「1997年に韓国が直撃を受けたアジア通貨危機以降、金大中、盧武鉉、李明博の3政権はいずれも新自由主義的な改革を行い、韓国経済からさまざまな規制を撤廃していった。直近では、李明博政権下で法人税減税が行われ、アメリカ・EUなどとのFTA締結による貿易自由化も推進された。これらは韓国におけるビジネスの環境を一般的に改善するものであって、財閥を優遇したものではない。しかし、輸出産業を財閥が有していることなどもあって、改革措置は結果として財閥の経済力を強めるよう作用した。その結末が経済格差の拡大である」p13 「ジニ指数と相対貧困率を見る限り、韓国は、OECD諸国の中ではそれほど平等性の低い国とは言えない」p17 「65歳以上の高齢者に限定して、ジニ指数、相対貧困率、貧困ギャップを見ると、いずれも韓国はOECD諸国の中で最悪に近い」p20 「韓国における高齢者の貧困が深刻な理由の一つは、公的年金制度の発足が1988年、国民皆年金状態の達成が2000年と、社会保障制度の整備が遅れたことにある」p22 「(貧困層の自活事業)自活事業参加者の基礎生活保障制度からの脱受給率は、2007年が6.3%で、自活事業が本格化していない2002年が6.9%であったことを考えると、ほとんど効果はなかったのである」p104 「(市民が参加する政治)医療保険制度改革について、保険者である国民と医療供給者、政府間での協議で保険料が決められるようになった。参加民主主義が進展しており、それまでのように官僚主導で物事が決まらなくなっていたのである」p112 「参加民主主義の進展は、市民が負担を考慮するからこそ福祉の拡大を抑制するという逆説を生み出した」p134
著者の大西裕(1965年~)は韓国の政治・行政を専門とする政治学者。 本書は、サムスン、現代グループなどの製品が世界を席巻し、ビジネス上は存在感を増す韓国が、国内政治において抱える課題を明らかにしたもので、2014年のサントリー学芸賞受賞作。 本書の主な内容は以下である。 ◆韓国の政治は従前より、平...続きを読む等重視、反米・親北朝鮮の進歩派と、自由重視、親米・反北朝鮮の保守派のイデオロギー対立が激しい。進歩派の支持基盤は南西部の湖南地方(全羅道)と若年世代、保守派の支持基盤は南東部の嶺南地方(慶尚道)と高齢者世代である。 ◆金大中政権(進歩派、1998年~)では、1997年の通貨危機で救済資金を提供したIMFの要請の下、新自由主義的改革を進めざるをえなかったが、一方で社会保障制度は整備され、福祉国家化した。しかし、新自由主義的改革も福祉国家化も中途半端に留まった。また、その路線を継承した盧武鉉政権(進歩派、2003年~)でも、米韓FTAを締結するなど貿易自由化を進めて経済の効率性を高める一方で、労働力の再商品化を進めて就業機会を与えるという、北欧諸国型社会民主主義のモデルを目指したが、イデオロギー対立を克服できずに、社会的合意を得ることができなかった。 ◆進歩派政権のアンチテーゼとして出発した李明博政権(保守派、2008年~)では、経済政策は「実用主義」(成長の果実の配分よりも、全体の成長を押し上げることにより、国民経済を豊かにする)、福祉政策は「能動的福祉」を掲げたが、進歩派はもとより、党内の朴槿恵派からの支持も得られず、大衆的支持も弱かったことから、目指した政策は進まなかった。 ◆2012年の大統領選挙では、1997年以降深刻化しながらも、イデオロギーの対立により争点となり難かった社会保障問題が遂に争点となり、保守派でありながら生活保障型国家構想を掲げた朴槿恵が勝利した。従来の「委縮した」社会民主主義から、国民が増税などの負担を受け入れる本格的な社会民主主義に移行できるのか、朴槿恵政権の、そして韓国政治の憂鬱はこれを克服しなければならないという点にある。 韓国は、経済的には大きな成功を収めているものの、歴代大統領がいずれも引退後悲惨な末路を辿るように、政治的にはとても成熟した国には見えず、不思議に思っているのであるが、本書の過去十数年の政治・社会の分析により、国内政治の歪みが小さくないこと、大統領のパフォーマンスもそうした政治権力基盤を踏まえて理解する必要があることが認識できた。(政治的未熟の原因が明確になったわけではないが) (2015年1月了)
データが豊富で、平易な分かりやすい解説から、普段取り上げられにくいユニークな視点での論考もあり、内容的に多く得るものがありました。
韓国へは2回訪れたことがある。 ソウルマラソンと学会参加が目的。 いずれも目的がはっきりしていただけに、韓国の様子をのんびり楽しむことなく帰国。 そんな訪問の仕方をしているだけあって、韓国のことは全く知らないに等しい。 海外の人からすると、日本には未だに忍者や侍がいるのではと思われているのと同じよ...続きを読むうに、韓国と言えばキムチをはじめとする韓国料理の印象が強い。 これではいけない。お隣さんのことをここまで知らなくて、仲良くできるはずがない。 ということで、手に取ったのが本書。 恥ずかしながら民主化されたのがつい最近の出来事であることもこの本で知った。 格差が広がり、高齢化社会が深刻化していて・・・というのは日本とそっくり。 この事態に対応が遅れ、耳障りのいい政策がどんどん幅を利かせるのも日本とそっくり。つけが次の世代へと先送りされ、状況は悪くなる一方。 結局政治家も、当選しなければ何もできないので、易きに流れ、悪循環を止められない。それでも、やはり問題は国民の側にも多いにあると感じる。人気取りの政策に踊らされて、自分の首をしめてしまうような選択は戒めねばならない。 直接関係はないが、仕事でも似た状況に出くわす。お客さん相手に何でも要求を受け入れていると、結局お互いの為にならない。OKというのは非常に簡単だが、背景を説明し、納得してもらい、相応の負担をしてもらうことが、国家−国民だけでなく、国民−国民でも重要だということを痛切に感じた。
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