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故里秩父という風土の中で、医者であり俳人でもあった父の周囲の俳句世界に接しながら、著者は旧制高校における師友との出会いによって初めてその世界に開眼する。以後著者の俳句の基盤は、土俗的なもの、生命の原質の燦くもの、そして人間の現実の多様性を直かにつかみとることに置かれる。一茶・放哉・山頭火を愛惜し、揺るぎない虚子の「有季定型」に抗しつつも、「有季定型」は「家」の問題とともに、日本人の心の最も内奥に宿ることを著者は見逃さずに指摘する。俳人金子兜太生々発展の軌跡を辿る好著。
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Posted by ブクログ
何となく書店に並んでゐたため。 大変すぐれた俳人であるといふことは耳にしてゐたが、どういつたところですぐれてゐるのか、また俳句といふ世界では何がすぐれてゐるといふのか、わからずにゐたから、まずはどんなひとか自分の目で見て考へてみたいと感じたからであらう。 句だけみると、とても静かで固い印象のものが多...続きを読むいと思ふ。しかし、それは理屈つぽさといふのではなく、ことばがことばとして尽きてゐるやうな、さうした印象だ。ことばによる説明を拒む、さういつた方が相応しいだらうか。詠んで何かを書かれてゐないあれこれを想像するのではなく、ことばそれ自体が、書かれてゐないことをも示してゐる。 そこには、絶えまない表現の飽くなき追求があつたことだと思はれる。子規や虚子の見出したあまりにも分厚い壁を、俳句といふ表現形態のぎりぎりまで攻める。そして、山頭火や一茶の句に至る。さうした創る衝動は、流行と伝統のまさに不易流行ではないか。 彼の語る経歴を読んでゐると、歩んできた道のりはそれほどまつすぐなものではない。自分の死の可能性、仲間の死ぬ可能性を潜り抜け、それでもなお、とどまることを知らぬ人生。そのどろどろした不定形。猥雑でぐちゃぐちゃなものをたくさん抱へてゐたはずだ。 しかし、句はさうした猥雑さがまつたくと言つていいほどみられない。かと言つて抑制的で理屈つぽいといふことではない。 彼が歩んできた実体験だけではかうにはならなかつただらう。実体験といふ液体をたつた数字の共通のことばで固体にするといふことは彼には息をするやうに「当たり前」なのだ。俳句を書かうとして書いてゐるのではなく、彼の心の動きが俳句的なのだ。
現代俳句協会名誉会長金子兜太の自叙伝。前半の講演録が面白い。前衛、社会派と呼ばれても、その根幹には日本の風土、産土の感覚がある。有季定型を完全に無視してはいけない。
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