1906年から1923年に書かれたアルジャーノン・ブラックウッドの短編を集めたアンソロジー。
ブラックウッドといえば、どの作品だかもう分からないが(本書にも入っている「秘書奇譚」かもしれない)高校生の頃読んでひどく衝撃を受け、「これは凄いかも」と思ったことがある。しかし、その後創元推理文庫『ブラックウッド傑作選』を読んでみると、そんなにショッキングなところはなくむしろ「ふつう」っぽくてがっかりしてしまった。あの時の「衝撃」というのは、その短編では恐怖小説の骨格ばかりが肉を落とされて露出し、その小説システムの露見が極めてラジカルなものに思えたのだ。骨格が露出するとともに、登場人物はハリボテ人形のような無機質な存在と化してしまう。その非-人間化のプロセスに衝撃を受けたのかもしれない。そうした非-人間化は、やはり私の好きなE. T. A. ホフマンの幾つかの短編にも見られるし、それを突き詰めてあっち側に飛躍してしまったようなのが、カフカの作品と言えるかもしれない。
本書で久しぶりにブラックウッドの怪奇短編を読んでみると、この作家の文章力はあまり良くないなと感じた。ちゃんと筋の通った文章ではあるが、何となく、リアルな描写という近代小説の必須な要素がしばしば置いてけぼりになって、小説と言うより神話的な語り口に見えてくるのだ。ラヴクラフトあたりと比べても、しっかりと描写を重ねていくところが物足りなく、一気に怪異の中心に飛び込んでしまうようなせっかちさが気になる。このせいで若い私に「骨格の露出」という印象を与えたのだろう。
本書前半の方の幾つかの作品は現在から見ると「あまりにもオーソドックスなホラー」という印象があるが、まあ、そういうスタイルを築き上げた古典的作品であるのかもしれない。
しかし特に本書後半はバラエティに富んだ感じがする。結構豊かな引き出しを持った作家だったのかも。あまり丹念に描写しない傾向が、ちょっと惜しい気がする。