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リベラリズムが分かれば現代が分かる。 初の入門書! 社会全体の「平等」と個人の「自由」をどう両立させるか。自由をめぐる現代的課題を解き明かす上で欠かせないのがアメリカ発のリベラリズム。ロールズからローティ、ネオコン思想まで。主要理論を時代背景とともに明快に解説し、日本をはじめ現代の思想状況にリベラリズムが与えた影響をさぐる。
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Posted by ブクログ
本書は、アメリカ現代思想を、ジョン・ロールズの1971年の「正義論」により打ち立てられたリベラルな政治哲学を中心にして、アメリカの政治状況と絡みつつ、各思想家、哲学者が、どのような必要にかられて自分の思想、哲学を構築していったのか、歴史的に述べている。そして、アメリカの哲学がいつのまにか、伝統的なフ...続きを読むランス・ドイツ系の哲学から、哲学の主流を奪ってしまったことについての、納得いく記述、回答になっている。 その哲学の主流の変化は、まずアメリカにおいて、文芸批評家ポール・ド・マン、ジョナサン・カラー等によりフランス・ドイツ系のポストモダンと言われた哲学が咀嚼、紹介され、盛んに研究された。一方、フランスでは、フーコー、デリダ等が亡くなって以降、哲学的に生産的な書き手がいなくなっていった。そこで、ポストモダン系の議論が、アメリカに吸収されてしまった。こういう吸収の過程がある。 また、欧州の大きな哲学の流れである、ウィーン学派論理実証主義が、英米にて分析哲学として継承され、ラッセル、ヴィトゲンシュタインらが発展させる。それを、アメリカのハーヴァード大学のクワインが、伝統的なアメリカ発の哲学であるプログマティズムと総合し、ネオ・プラグマティズムとして打ち出す。 上記のような2つの大きな流れで、英米の哲学が、哲学研究の中心となった。 そこで、ロールズである。ロールズの正義論とは、リベラルの再定義。公正と自由の両立、つまりは民主的手続きと自由主義的価値の統合を図っている。なぜ、リベラルの再定義が必要にされたかといえば、1930年代、世界恐慌の解決策として、民主党のフランクリン・ローズヴェルト大統領によるニューディール政策(イギリスの経済学者ケインズの考えを援用し福祉や雇用政策に政府が積極的介入を行なっていく)、この政策が実施され、実際に成果も上がったと言える。 だが、第二次大戦後1947年、トルーマン・ドクトリンにより共産主義封じ込め政策が、実施され、共産主義を許容しない自由主義国家という矛盾した状態に、アメリカは陥った。そして、その理論的支柱として、計画経済、ソヴィエトを全体主義へ至る道とし、同時にドイツのナチスも全体主義として批判する、ユダヤ系でドイツから亡命した思想家ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」が、古典的自由主義の立場から、アメリカ哲学界、思想界をリードした。また、ウィーン大学のオーストリア学派として出発し、ロンドンのLSEを経て、アメリカのシカゴ大学に移ったフリードリヒ・ハイエクもまた、古典的自由主義の論陣を張った。古典的自由主義によって立つ勢力は強力な論陣を張っている、このような状況下でリベラル勢力は、ローズヴェルト政権のリベラルな政策の実施とその処方箋であるケインズ経済学以外に、強力な哲学的な基礎を欠いていた。 そこでハーヴァード大学で、倫理学を研究、分析哲学のムーアによるメタ倫理学に飽き足らなかったロールズが、社会的な正義についての議論を深めたいとの意図から、アメリカの憲法制定における理念に立ち返り、公正と正義が、両立すべき条件を探ったのが、『正義論』である。この本の一番のハイライトが、このロールズの、憲法典の根本に立ち返り、憲法を生きているものとして、不断に解釈を改めねばならないとする姿の描写にある。1971年にあっても、第三代大統領ジェファーソンと同じ臨場感、緊張感を持って、憲法典を再解釈し、市民に訴えていく、その態度が、全く今まで知らなかったアメリカの一面である。 日本においては、明治憲法、日本国憲法、どちらにせよ、憲法起草者と同じように、不断に解釈を行い、世に問うという精神の動きは無いと、言っていい。比べて、アメリカの生きている憲法という理念と、それを実際に生かすロールズの姿勢に驚きを持った。そのロールズの精神を再確認したいと感じさせる本である。 また、リベラル、コミュニタリアン、リバタリアンの3つの思想潮流が切磋琢磨する様子など、アメリカ思想界のダイナミクスと歴史の流れをコンパクトに描いた良書であり、得られるものは大きい。お勧めである。
アメリカの哲学の今がどういう風になっているのか見通すことが出来る。おおよそを見渡すのにはいい一冊。ここから細かいところへ入っていくいい入門書になっていると思う。
第二次世界大戦前後から9.11以降の現在に至るアメリカの政治思想の歴史を、その時々の政治的状況を顧みながら概観する。「アメリカ現代思想」と言っても、アメリカに拠点を移したヨーロッパや非西欧圏出身の思想家なども含まれるので、本書がカバーする範囲は広い。 第一講ではロールズ以前のアメリカの思想状況とし...続きを読むて、全体主義を批判し自由を擁護したフロム、ハイエク、アーレントなどが紹介される。 第二講以降は、ロールズの正義論と、それに対するリアクションとして展開された種々の思想が時代を追って紹介される。 ロールズに対する種々の批判や応用、広義のリベラリズムとポストモダニズムの関係などを解説した第三講〜第五講が本書の最大の見所だと思う。 厚生経済学者のアローやハーサニは、格差原理と同等の考え方は功利主義の理論の中にも含まれていると批判した(マクシミン・ルールや平均的効用最大化原理など)。 ドゥウォーキンは、ロールズの議論を法哲学に応用し、「平等の配慮と尊重」を原初状態において既にある自然権として明確に位置付けた(【権利基底的リベラリズム】)。 ノージック、ブキャナンらの【リバタリアン】、マッキンタイア、サンデルらの【コミュニタリアン】からのロールズ批判は周知のとおり。 ほかにも: ウォルツァー、テイラーなどのコミュニタリアン左派による【多文化主義】と、ポストモダニズムから影響を受けた【差異の政治】(多文化の“共生”は多数派の勝利を意味するとして退ける)との対立。 画一的な正義は新たな抑圧を生むとして主流のリベラリズムを批判したコノリー(【戦闘的リベラリズム】)と、個人のアイデンティティーの確立には【他者による承認】が不可欠と主張するテイラーとの対立。 私的領域の問題として政治的課題から外されていた「家庭内」の問題には、職業やジェンダー分業といった“公的”な問題が入り込んでいるとして“公的領域”の拡大を図った【ラディカル・フェミニズム】、etc。 ポストモダニズムからの影響を受けたこれらの思想は、伝統的/西欧中心的/男性中心的な“多数派”の土俵で相撲を取ることを拒否するものと言えるだろう。そして彼らの主張は簡単に退けられるものでもない。 第六講で紹介されるローティは、ポストモダニズム的な視座から前期ロールズ的なリベラリズムを批判する思想の最たるものだ。ローティは、リベラルな道徳観は人間本性から出る必然的なものではなく、偶然的なものに過ぎないと主張する(【リベラル・アイロニスト】)。 『正義論』では“人間本性”的なものを想定せざるを得なかったロールズも、後年にいたって「正義に関する合意」は哲学的なものではなく、あくまで政治的なものであるとして、自身の主張をやや後退させており、ローティはこれを評価している。 第七講〜第八講では、ハーバーマスに代表されるフランクフルト学派や、インターネット社会の“サイバーカスケード”現象を危惧したサンスティンらの【討議民主主義】、アメリカの自由民主主義が孕む矛盾(共同体的価値観の喪失)を指摘したフランシス・フクヤマの【歴史の終焉論】、非西欧文明の脱西欧化を指摘したハンチントンの【文明の衝突論】、市民社会の拡大によるグローバル民主主義が【ジハード対マックワールド】(非西欧vs西欧、伝統文化vsグローバリズム)の対立の深刻化を救うとしたバーバー、異なる価値観をもつ者同士の緊張・対立・連帯を含む相互作用を重視したネグリ=ハートの【マルチチュード論】、ロールズの正義論は途上国には適用できないと批判したアマルティア・センの【潜在能力向上論】など、正義や民主主義を巡る議論及び思想家が紹介される。 自由や民主主義といった、西欧的(とされる)価値観をとことん相対化しようとする試みの歴史はスリリングで読み応えがあった。 ロールズの正義論に関して疑問に思っていた部分(人は原初状態で本当に同じ選択をするか?)への批判を知ることができて有益であった。 個人的には、相対主義的なローティよりは、ドゥウォーキンの自然法論や、ウォルツァーやテイラーなどのコミュニタリアン左派の議論に共感を覚える。
この本を一読すると他の米国政治哲学系の本を読む際に見通しが良くなります。また、ロールズ以前、米国の政治哲学関係者が抱えていた危機感などにも丁寧な解説がなされています。おすすめです。
現在の宗教を考える上で、特にアメリカにおいては政治を考えなければならなくなっている(そしてその逆も然りである)。ということで何か政治哲学に関する入門書をと思い、手を出したのがこの本である。 僕の政治哲学に関する知識はほんのりハーバーマスやテイラーについて知っている程度であった。その程度の知識しかな...続きを読むい者にとっても、本著は非常にわかりやすいと思う。特に、現在どのような思想があって、それはどういう経緯で生まれてきて、どういうところで対立しているかという全体像が見事に整理されている。また、日本の政治哲学思想についても少し言及してくれているのも嬉しい。 アメリカの事例なので、必ずしもこの本を読むことで日本の政治哲学を解き明かすことにはならないのだが(次回は筆者の日本の現代思想に関する本を読もうと思う)、少なからずアメリカ的なもの(≒グローバリズム)と(追随するにしろ迎合するにしろ)向き合わなければならない日本にとっては、充分にアメリカの現代思想は追っていく価値がある。これが本著の最後に述べられたところであり、僕も深く同意する。 個人的には今のところ、日本はアメリカやヨーロッパ諸国のようなグローバリズムにいくというよりも、国民国家的な性格が強いしむしろそれを活かすべきだと考えているが、このあたりの思想も今後様々な議論を追っていくことでどう変化していくことだろうか。また、宗教学徒として、マスレベルでの「宗教」についても、グローバルな流れの「宗教」からどの程度日本の「宗教」が特質性を持っているかを絡めて考えていきたい次第。
ポストモダンの残滓の中で大学生活をおくり、思想や哲学も一通り出尽くした後で、もはや「倫理学」しか残されていないのかな~と妙に達観してた(させられた)往時だったけど、 ほぼ眼中になかったアメリカに、新しい思想潮流が生じていて、それが今やメインストリームにまでなっているとは・・・まったくもって知りません...続きを読むでした。 当時このことを知っていたなら、だいぶ読む本や研究テーマが違ったのにな~、残念。
リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアニズムの対立を中心に、アメリカの政治思想を分かりやすく紹介している本です。 上記の3つの立場だけでなく、ポストモダン左派の文化闘争や、『アメリカン・マインドの終焉』のアラン・ブルーム、「文明の衝突」のハンティントンや『歴史の終わり』のフランシス・フクヤ...続きを読むマといった広い意味での思想にまで目配りをおこない、さらに現実の政治状況にも言及していますが、極めてクリアな見通しを与えてくれる本で、優れた入門書だと思います。 同時に、マルクス主義や市民主義の伝統の強い日本では、「自由」や「平等」、「正義」といった基礎的な概念についての突っ込んだ哲学的考察がおこなわれず、浅田彰に代表されるポストモダン需要も消費社会論という形で流通することになったという見解が示されています。
アメリカの民主党と共和党は思想的にどう違うのか? 保守、革新、右派、左派、民主主義、自由主義…政治関係のニュースに限らず、日常会話にも出てくるこれらの言葉を、私は今まで適当に使ってきた。しかしISILや集団的自衛権など、日本は安全だからと悠長なことを言ってられない状況になり、自分の考えをちゃんと整理...続きを読むしたくなった。 日本の民主主義は、欧米のように自分たちで試行錯誤して作り上げたものではなく、所詮は英国の真似か米国の押しつけで、思想的中身がない、と誰かの講演で聞いたことがある。そこでまずは、アメリカのリベラリズムについて、初歩的なところから勉強したいと思ったのがこの本を手にした理由である。 内容は期待以上で、当初は奴隷の人権なんて考えなかった国が、男女平等、黒人差別の撤廃へと変わってきた流れを、分かりやすく説明されている。とても分かりやすいのだが、そもそもがややこしいので、一度読んだくらいでは覚えられない。買って手元に置いておくべきかもしれない。
一時期流行した、サンデルの正義について等を、アメリカの現代思想の流れの中で追いたかったので読んでみた。 序章によると、思想のアメリカ化の流れは、①ポストモダンの流れ、②分析哲学の流れ、③リベラリズムの流れがあるそうだが、本書は③のみを扱っている。 内容としては、保守主義とリベラルの対立軸の中で、...続きを読む元々リベラルがもっていた「自由主義」的な考えを保守主義がもつことによって、リベラルとしても新たに自由と平等を両立する必要性に迫られて、ロールズの「正義論」が生まれた。正議論を受けての、リベラリズム、リバタニアズム、コミュニタリズムなどの思想が生まれ、ポストモダンの哲学、冷戦後の哲学、文明の衝突などの帝国論を含めて、9.11まで議論が盛り上がっていく。 9.11以降は、実際の政策が主になってしまい、議論ができていない(2008年発刊当時)と書かれているが、今後ともアメリカがメインの現代思想は伸びていくと思われる。
リベラリズムを取り巻く哲学の議論について広く知ることができるが,門外漢の自分としてはかなり難しく,なかなか読み進められなかった. 試金石となる何か一つ詳しい思想・哲学があれば,より鮮やかに全体像の把握もできたかもしれない.
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仲正昌樹
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