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戦時下、畢生の大作『旅愁』を書いて東北地方の僻村に疎開していた横光利一は、そこで日本の敗戦を知る。国敗れた山河を叙し、身辺を語り、困難な己れの精神の再生を祈念しつつ綴った日記体長篇小説『夜の靴』。数学の天才の一青年に静かな共感をよせる『微笑』。時代と誠実に格闘しつつ逝った横光利一最晩年の2篇。
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Posted by ブクログ
初版は鎌倉文庫(1947年11月)。 著者の山形での所懐生活に取材した日記体の長篇。作中では日付は匿名化されている(「―日」と表記される)が、文芸文庫版の巻末資料に掲げられた河上徹太郎の文章によれば、1945年8月15日から12月15日までの4ヶ月間の時間が描かれている。 5月末の東京空襲後...続きを読む、やっとのことで山形の山村に疎開先を見つけた「私」は、自分が「小説家」であることをどうかして知られまいと努めながら、農村の人々のその暮らしを詳しく観察しつづける。描かれるのは、戦時下の「供出」がもたらした村内の対立であり、本家と分家の微妙で複雑な関係であり、濃密な人間関係の中での政治であり、戦争で我が子を失った、あるいはじっとその帰りを待っている老親たちの嘆きと健気さとであった。 日本敗戦直後、GHQによる占領政策が本格化する以前の農村の記録として貴重。また、この小説での「私」は新聞にもラジオにも言及せず(「私」は用向きのため時折街へと出るのだが、そこでどんな情報に触れたかはまったく書かれない)、閉じた共同体としての農村のありようを強調しようとする。 作の後半、特攻隊の生き残りが村に帰ってきて、父親とのんきに酒を呑みながら「ああ、もう、助かったのか死んだのか、分からん分からん」と語る場面が印象に残る。肝心な場面でわけのわからない一文が書き込まれていることも、とても気になる。
微笑だけ読む。扇風機の中心から目を外した一瞬だけ見ることができる半歩先の世界。世の中は戦争が終わっても相変わらず排中律で、誰もが狂っているような中で、その世界を信じるだけで心が少し軽くなるような、願いに満ちた小品。素晴らしかった
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