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足を洗った直後に惨殺されたコールガールのキム。アル中探偵スカダーはヒモのチャンスが殺したと確信したが、彼には確固たるアリバイがあった……感傷と虚無の街ニューヨークを舞台に、スカダーの執念の捜査を描く哀感漂うハードボイルド。アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作。
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Posted by ブクログ
「エメラルドシティには八百万の物語がある。そして八百万の死にざまがある」子どもを誤射して撃ち殺してしまった過去がある元警官でアル中の探偵マットスカダー。学生の頃に「聖なる酒場の挽歌」を読んで以来だ。足抜けをした翌日にナタで殺されたコールガールのキム。彼女の依頼でマットは前日にヒモのチャンスという男に...続きを読む話し、心良くOKをもらっていた。そしてキムにもチャンスにも好意を抱いていた。なのに、なぜ?誰が?田舎から出てきたキムの人生。チャンスの人生、他のコールガールたちの人生。マットが通う禁酒集会所の人たちの人生。登場人物一人ひとりの人生が、まさに八百万の生きざまとして語られていく。さらにもう一人おかまの売春婦が同じ手口で殺された。マットは自らを囮にして犯人を誘い出す。酒を断ちコーヒーを飲みながら、時に失敗を繰り返す。都会では多くの人たちの意図や願い、感情がすれ違い、交錯し、錯綜する。助け合い、求め合うも、描かれるのは埋めようのない孤独。人生は意味もなく苦い。
アルコール中毒の元刑事、マット・スカダー。 今では伝手を頼ってやってくる依頼人からの仕事を受けながらのホテル暮らし。 別れた妻子への送金も滞りがちで、酒を断とういう苦闘を続けていた。 売春婦キム・ダッキネンからの依頼は、ヒモのチャンスと手を切りたいということだった。 マットが交渉するとチャンスはあ...続きを読むっさりと承諾したが、その二日後、キムは惨殺死体で発見された。 警察はチャンスを有力な容疑者として疑うが、チャンスはマットに真犯人を探し出してほしいと依頼した。 許可証もない探偵として、マットは調査を始める。 変容してゆくアメリカ社会の中で、犯罪はどのように変わってゆくのか。 警官時代に、心ならずも現場に居合わせた少女の命を奪ってしまった、マットの心が癒される日は来るのか。 シリーズの他作品も読んでみたくなる。
数年ぶりに再読した。 初めて読んだのはまだ高校生か大学生の頃だった。ずっとこのマット・スカダーシリーズを読んできていたからか、ラストシーンで泣いたのを覚えている。 その頃、マットのように「いきつけのバー」で「いつもの席でいつものもの」を頼めるような大人になりたいと思っていた。ちょうど、マットとダ...続きを読むニー・ボーイの会話のように。 そして今、マットと同じようにお酒を飲む大人になった。 お酒を飲んでいない時にはわからなかった、マットが酒に浸る気持ちが少しづつ分かり始めている。 キムという娼婦が殺された。 ほんのちょっとすれ違い、ほんのちょっと人生の後押しをしてあげただけの、たったそれだけの関係の女性。だけどマットは彼女の事件を追い続ける。何故なのかは自分でもわかっていないようだ。 ニューヨークの暗い部分を歩き続け、最終的に見つけたキムを殺した犯人。キムが殺された理由。 事件が終わって手にしたバーボンのグラス。11日も禁酒していたのに「鉄くずが磁石に吸いつけられるように」酒を頼んでいた自分に気づいて、そして迎えるラストシーン。 今度は泣かなかった。 胸にこみ上げてくるものがあるのは変わらない。ニューヨークという街とそこに生きる人たちの描写がうまいのは変わっていない。マットがアル中だったことも変わらない。 ただ変わったのは自分がマットと同じお酒に魅せられた人間になっているということだけ。 泣く代わりに、カウンターの上のバーボンを飲んだ。 お酒を飲む人なら、きっとマットの気持ちに近づける。
久々に魂を打たれた。(あくまで俺の中で)嫌みにならないギリギリのカッコよさの文体。スカダーの独白や、ふとしたセリフが石をうつ水滴のようにゆっくりと心にくる。
[不条理の交差点で]ある出来事が引き金となりアルコールから抜け出せなくなった私立探偵のスカダーは、コールガールから「ヒモとの縁を切りたい」との依頼を受ける。男との話し合いもつつがなく進み、何事もなく幕が引かれると思ったのだが、男とそのコールガールが面会をした翌日、彼女がとあるホテルの一室で惨殺された...続きを読むという報がスカダーの下に届き…...アメリカ私立探偵作家クラブのシェイマス賞を1983年に受賞したハードボイルド・ミステリーです。著者は、映画『マイ・ブルーベリー・ナイツ』の脚本も手がけているローレンス・ブロック。訳者は、ミステリーの翻訳を主に手がける田口俊樹。 (限りなく良い意味で)小説から漂ってくるすえた雰囲気がたまりません。無関心と不条理に貫き通されたニューヨークという舞台で、これ以上なく渋く、それでいて人間臭く生活を送るスカダーというキャラクターにまずは心を奪われるはずです。ハードボイルドという言葉がなんとも時代遅れに感じられる今日ではありますが、本書中で交わされる会話も含め、この作品にはまさにその形容がピッタリと来ます。 ミステリーの側面でもこれまたお見事。特に後半に至ってグッとアクセルを踏み込んだかのようにグイグイと読者を引き込んでいく様に、「ミステリーにハマっちゃうのってこういうところなんだよね」と思わずにはいられませんでした。書かれた頃からずいぶんと月日が経過していますが、それでも色褪せない、というよりも逆にヴィンテージもののような渋いカッコよさがつきまとう一冊でした。 〜私には彼を許さなければならない義理などない。許すことは神の業だ。私のすることではない。〜 どうやらローレンス・ブロック氏の作品群の中でもこの作品が3本の指に入るようで☆5つ
分類したらハードボイルドミステリなんだろうけど、主人公のマット・スカダーの変化を追う方が面白い。だから、おれの中ではミステリとしての評価はあまり高くない。 しかし、それでもこの本は傑作。シリーズ1作目から通して読んできたので、この本の最後は涙が出た。
アルコール小説のようで実はコーヒー小説。読んでいると無性にコーヒーが飲みたくなる。コーヒーが象徴する高貴さと人生の苦さを味わうハードボイルド小説の傑作。
アル中文学&ハードボイルドの名品。毎日新聞書評欄で橘玲さんが紹介していた。中島らも「今夜、すべてのバーで」とともに必読だ。 アル中の心理を描く圧巻の描写! 「一日二杯」が適量といっていたのに、さらに飲む「理屈」を考え出す。いつのまにか、抑制しなくていいということになっていく…。そして、「覚えている...続きを読むのはそこまでだった」(p108) 無意味に人が死んでいく。くそったれの街。そして暴言を吐く警官。しかし主人公は思う。「彼はどんな相手にも同じことばを吐きかけただろう。相手がいなければ夜そのものにでも」(p189) 襲ってきた暴漢を倒したが、震えがとまらない。止める方法は、もちろん酒だ。 「通りの向こうから赤いネオンが私にウィンクを送っていた。バー、とそれには書かれていた」(p279) 体に突き刺さる、身体的な文章だ。主人公が見せる「弱者に対する弱者の思いやり」(訳者あとがき)にもしびれる。くそったれの世界で、最低限のモラルを持って生きるかっこよさ。なかなかのハードボイルド体験だ。ラストが本当にいい。
ハードボイルド系だと思って敬遠していた作品。これが中々おもしろかった! 主人公はアル中の探偵スカダー。しかし、酒を飲んで立ち回るような豪快な探偵ではない。 アルコール断ちの集会に真面目に参加し、酒を飲みたいという葛藤と常に戦い続けている。 淡々とした渇いた文章、盛り上がりの少ない展開、孤独な私...続きを読む立探偵が主人公…ハードボイルド三拍子が揃っているが、 ハードボイルドの定義が、【暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する】作品であり、【感情に動かされないクールな生き方】を指すものなのだとすれば、本作はハードボイルドではないのだろう。 スカダーはまだ、暴力と無意味な死が溢れかえる非情な現実を受け入れられずにいるからだ。彼は繊細な探偵だ。だからこそ、この世の不条理ばかりが目につく。 彼がなぜ、知り合ったばかりの娼婦のために、身を危険に晒してまで犯人探しをするのか。これは必ずしも彼女のためだけではないだろう。新聞で眺めることしかできなかった世の中の不条理に対し、抗えるチャンスをようやく掴んだからではないだろうか。 自分を襲ってきた辻強盗を、世の中のために殺してしまうか葛藤する場面がある。一見スカダーは、正義感が強い人間のように感じる。辻強盗の件からも分かる通り、悪に対し非常に敏感だからだ。しかし、正義感という言葉はどこか違うような気がしていた。訳者あとがきに、スカダーは罪と罰の条理性を求める人間だと書かれており、この表現が1番しっくりきた。
このシリーズもいつの間にか何冊も読んでいて、前に読んでから間が空いてるのに、読み出すと思い出す。さすがマットさん。 今回もコツコツと地道に仕事を進めて、最後の解決に至るところまで実に地味なわけで。コナンくんみたいに犯人はおまえだ、的なこともなく。なんだけど、このコツコツいく拳の使い手の道のりを辿るの...続きを読むは嫌いじゃないなー。 毎回一緒のような気もするけど、でも時々忘れた頃に読んでみて、読んだあとで、ふぅー、と一息つくのが、なんとも不思議な魅力。
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