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格差は、負け組も勝ち組も寿命を縮める。
ハーバードで世界が熱い視線を送る授業がある。日本人教授イチロー・カワチによる健康格差論の授業だ。先進国の中で寿命が短いアメリカと、世界トップ級の日本。この違いは格差にあった。今、格差の広がりとともに日本の長寿は危機に瀕している。格差はストレスを生み、信頼や絆を損ね、寿命を縮める。人々の命を守るには、日本の長寿を支えてきた、格差が少ない結束の強い社会を守るべき――所得、教育、労働、人間関係…あらゆる側面から格差を分析、新たな長寿への可能性を探る。
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Posted by ブクログ
日本出身でハーバード大教授の社会疫学者。専門書では翻訳が何冊か出ているが、新書で著者の研究をわかりやすく解説された書籍。米国は医療費を多額にかけながら、低い健康水準であるが、その大きな要因は経済格差である。低所得層が影響をまず受けるのはわかるが、高所得層にも影響を受ける。資本主義である限り、格差をゼロにする事はできないが、格差を少なくする戦略として、①所得格差の是正②幼児期からの早期の教育③職の安定、が必要と著者は言う。そして社会全体をよりよくするための仕組みを作り、一人一人が行動を変えやすくするための環境を整える事が大切。個人の行動変容は、社会全体の枠組みを形成する中で、はじめて実現可能となるのであり、自己責任論に立つ限り改善はえられない。以上の事を科学的根拠を持って解説されるので説得力がある。まさに『上医は国を医す』である。
Posted by ブクログ
ハーバード大学の日本人教授、
イチロー・カワチ氏による社会疫学についての紹介・解説書です。
たとえば、肥満で生活習慣病になってしまったひとがいるとする。
血圧も高い、血糖値も高い、などを改善していくために、
お医者さんが薬を処方し、運動不足を解消するように促したりする。
そういうのは、健康を大きな川の流れに喩えると、
下流での対処のしかただと、カワチ氏はいいます。
社会疫学は、川の上流で対処をするための学問。
上流ではなにが起こっているかを考えると、
貧困によって粗悪なスナック菓子や惣菜などを食べざるを得なくなっていたり、
それらの営業宣伝がうまく感情に訴えることもあって、
食生活に溶け込んでしまっていたり、ということがわかる。
社会全体を鳥瞰図のように見て、
処方箋を考えようとするのが特徴のようです。
なので、個人に責任を帰することはほとんどしない。
あくまで社会の仕組みの問題であり、
個人個人を見ていくにあたっても、
行動経済学の考え方で見ていくことになります。
人間一般の行動原理としてみていくので、
個人を責めることはないのです。
本書に、以下のような引用があります。
「下流」にいるお医者さんを主人公にして、
「上流」をイメージするに適した文章です。
_____________
「岸辺を歩いていると、助けて!という声が聞こえます。
誰かが溺れかけているのです。そこで、私は飛びこみ、その人を岸に引きずりあげます。」
「心臓マッサージをして、呼吸を確保して、一命をとりとめてホッとするのもつかの間。
また助けを呼ぶ声が聞こえるのです。」
「私はその声を聞いてまた川に飛び込み、患者を岸まで引っ張り、緊急処置をほどこします。
すると、また声が聞こえてきます。次々と声が聞こえてくるのです。」
「気がつくと私は常に川に飛び込んで、人の命を救ってばかりいるのですが、
一体誰が上流でこれだけの人を川に突き落としているのか、見に行く時間が一切ないのです。」
_____________
この「上流」を本書では、パブリックヘルスと呼んでもいます。
おもしろかったのが、
肥満は伝染する話です。
細菌やウイルスによって伝染するというのとは違いますが、
調査によって、わかっていることだそうです。
肥満の人が身近にいると、50%の確率でその友だちは肥満になるそうです。
肥満の友だちと直接関係が無くても、
肥満の人の友だちの友だちは20%の確率で肥満になる。
友だちの友だちの友だちにいたっては10%の確率で肥満に。
僕はこれってミラーニューロンが何か
影響しているのではないかなあと思いましたが、
仮に影響していても、たぶん小さい影響で、
なにがしか、脳全体に関わるような影響がありそうに思えます。
心理学的にはもう無意識の領域かもしれない。
また、現行の非正規雇用は不健康を産むだとか、
流れ作業が大きなストレスを産むだとか、
話の流れの中で登場する数々のトピックがどれも興味を引きました。
理想の労働環境について、図を用いて説明してくれたり、
高い教育を受けた者は健康である確率が高いことを教えてくれたり、
人との触れ合い、それが具体的な助けではなくても、
なにがしか助けたり助けられたりしているというソーシャルサポートの話があったり、
200ページちょっとのなかで、盛りだくさんでした。
でも、整理されているので、ごみごみしていない本で、読みやすいんですよ。
最近では受動喫煙制限の話題がありますが、
これなんかは法律でどうにかしようとしている。
つまりは、社会疫学、パブリックヘルスの考え方でやっているってことです。
著者は、日本の絆や繋がりといったものが
どうやら長寿に関係していると見ています。
日本の外にいると、それが顕著にわかるそうなんです。
日本の内側にいると、近所づきあいだとか面倒くさいなあ、なんて
思う人は多いと思うのですが、
そうであっても、長寿の恩恵はそういうところから来ているとしています。
日本の平均寿命は長らく世界No.1でしたが、その座から陥落しているそうです。
格差社会の到来がその原因ではないかと本書は言っています。
この長寿No.1の座に復権するためにも、
健康目線で社会を変えていこう、という志が根底にある本です。
幸せに長生きできて、さらに健康状態であれば個人としてもすばらしいことだし、
国家としても医療費削減は喜ばしいことです。
WinWinの状態に持っていくためには、まだまだ研究も実践も足りないようですが、
こういった分野があるってことは喜びたいですよね。
良書でした。
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