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芥川賞作家、藤野可織が描く、現実と非現実の交錯する恐怖の世界。
主婦の内田百合は隣人男性の高木の奇行に不安を覚える。どうして彼は、玄関ではなく家の裏の窓から、靴も履かずに、狭いブロック塀の間を縫うようにして外へ出るのだろう…?あの家の中で、一体何が起こっているというのか。
薄暗い部屋の中に、食われた鳥の残骸と鳥に変身した大男が立っている。鳥男が次に食べるものは決まっている。その家の主人だ。家の隅に追い詰められた高木は、食われる前に、鳥男を殺すことを決意する。
登場人物たちの恐怖と不安が入り混じり、読者は幻想世界へと誘われる。現実と非現実とがつなぎ目なく語られて、どこからどこまでが本当で夢なのか、誰にも分からない。
表題作の他、恐竜に母を食われた女性の内面を描いた「溶けない」、奇妙な愛の叙情作「胡蝶蘭」を収録。藤野の描く恐怖の幻想世界へ、ぜひ溺れてみては。
Posted by ブクログ
表題作は、どうも世界に入り込めなかったので、特に感想は書かず、併録されている「溶けない」について。
<溶けない>
子ども(小学校低学年)のころ、夜眠っているときに足を引っ張られるような感覚があり目が覚めてしまうことがたびたびあった。あの頃はオバケの仕業かとびくびくしていたのを覚えている。この小説で幼い「わたし」が恐竜に遭遇するシーンを読んだ時の印象が、ちょうどこれに似ていた気がする。
私の「足を引っ張られるような感覚」はもうなくなった。幼少時代の不思議な体験など、大人になるにしたがってそれが何か分かるあるいは気のせいだと思い、雲散霧消していくものだ。
しかし、この小説では終わらない。じわじわと日常に忍び寄ってきて、あろうことか大学生にまでなった「わたし」まで飲み込んでしまう。
周囲の人間の反応からすれば、その体験は「わたし」のもうそうだろうとは思うのだけど、「わたし」の視点が妄想を見ているそれとは到底思えないほどにくっきりしている。
こうしたズレはどうして生まれたのだろうか、この幻想は何かの隠喩なのか・・・そういった疑問は解けないままで心残りだけど、もっと同著者のほかの小説も読んでみたいと思うものではあった。独特の気持ち悪さこそが物語の醍醐味なのだろうか?
Posted by ブクログ
「いやしい鳥」「溶けない」とショートショートの「胡蝶蘭」の3篇は、いずれも不可解な怪物に出くわす話。不条理な状況に翻弄されつつも、それに抗い立ち向かうラジカルさが更に事態を悪化させるのは、初期筒井作品を彷彿とさせる。
「いやしい鳥」は、お隣に住む主婦を一方の視点に加えたことにより物語に客観性を与えスラップスティックコメディ色が薄れ、筋立ての面白さが増しているように思う。ただ、次々に登場する不快なアイテムがあまりにありふれていてややしらける。三者それぞれの切迫感は感じるのだけど精神的に追いつめられていく様子があまり見られないため全体としてエッジが立っていないように思う。読んでいる間中セサミストリートの曲が頭の中を渦巻いた。
「溶けない」は、著者得意の母娘もの。女性特有のしぐさの描写は素晴らしく、全体として映像的なイメージの作品となっている。「溶けたりしないくせに。どうせ老いて死ぬくせに」というインパクトのあるひと言が本作の全てだろう。
「胡蝶蘭」は、わずか15ページほどの短い作品だが、視覚的描写が際立っているので、3篇中最も強い印象を残す作品となっている。「胡蝶蘭はなにも言わなかった。当然だ」というフレーズに、オチを付けねば落ち着かないという著者の上方気質を感じる。こういうの大好き。
Posted by ブクログ
「爪と目」「パトロネ」に続いて3冊目、相変わらず不思議ちゃん全開の藤野ワールド。
飲み会帰りにひょんなことから転がり込んで来た学生がペットのオカメインコを食ってしまったあげく自らがそのものになってしまい飼い主を攻撃するという荒唐無稽なストーリーなのだがやはり構成が冴えている。
読み手はオポチュニズム然とした隣人の主婦の目線で事件を俯瞰するという設定が面白い。そしてもっと面白いのは藤野さんが書きながらクスクス笑っているのだろうなと思わせる小技の数々。
若いのに曲者、なかなかやるな!が感想でした。
PS…ベリーショートながら「胡蝶蘭」が秀逸!新進気鋭の作家藤野可織そのもののシュールな仕上がりでした
Posted by ブクログ
「いやしい鳥」
「溶けない」
「胡蝶蘭」
文芸誌で短編一本読んだときから何となく気になっていた作家さん。
やはり好みな作風だった。
いずれの話も非日常・非現実な事柄が登場するのだけれど、それがもしかしたら語り手だけの体験なのではないかと不安を抱かせる。
この非日常との距離感がとても自分にしっくりくるもので、もっと他の作品も読みたいと思った。
「いやしい鳥」
即座に結びつく証拠は、この表題作でも消されている。最初に詮索好きで勝手に妄想を膨らます主婦の視点から、この物語の主要な語り手を外から描写。そして男の語りも最初は支離滅裂。とても疑わしい。
鳥になった男の不気味さは秀逸。同じ人間とは思えないところから、本当に人外へとなってしまう。
「溶けない」
三編の中では一番好き。
幼いころ「恐竜」に飲み込まれた母親は、姿形も記憶もまったく同じ別の母親になって戻ってきた。
同じくカメレオンを見たという同じ大学の女性や、「恐竜」じゃなくコモドオオトカゲだと言う大家。
飲まれるって何なのか?
母親との関係性や主人公自身の変化などが、人を飲み込もうとする何かとつながりを感じられて、このつながってるぽい距離感もいい感じ。
明白じゃないけど、意味を感じる。
「胡蝶蘭」
スッキリとまとまった一編。
最後がおしゃれ。
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小説・文芸
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