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死について、幸福について、懐疑について、偽善について、個性について、など23題――ハイデッガーに師事し、哲学者、社会評論家、文学者として昭和初期における華々しい存在であった三木清の、肌のぬくもりさえ感じさせる珠玉の名論文集。その多方面にわたる文筆活動が、どのような主体から生れたかを、率直な自己表現のなかにうかがわせるものとして、重要な意味をもつ。
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Posted by ブクログ
三木清は先崎彰容氏の推薦ということで手に取ったが、大変良かった。 構成は、「習慣について」「怒について」など短い章に分かれている。 言われていることはヨーロッパの思想に似ているが、それを唐突に直感的に書いていて、背景と理由は説明してもらえないところが日本思想。 と思いつつ読み進めていたら、まさ...続きを読むにその点を指して、 「確実なものの直観は…論理の証明を要しないのに反して、不確実なもの…こそ論理を必要とする」 とあっさり論じてくれた。 「感情は多くの場合客観的なもの、社会化されたものであり、知性こそ主観的なもの、人格的なものである」というのも、その言い換えである。 社会と論理から思想を導くヨーロッパに対して、思想が個人に由来するという捉え方もある日本人の、わかりやすい自己説明だ。 この掴んだ実感をしっかり自分の言葉で表現できるようになりたいものである。 印象に残る章やフレーズ、言葉は、読む人やその時の心理状態によって変わるだろう。 自分は、特に最後の「個性について」の美しさに圧倒された。 ここだけ読むだけでも価値がある。 この章は附録であるらしく、「大学卒業の直前…私が公の機関にものを発表した最初である」と書かれていた。 若さの持つ瑞々しさが感じられたが、まさか大学生の文章だとは驚きだ。 やはり天才。 噂の持つネガティブな意味での力について、或いはテクノロジーの発達が世界を広くも狭くもしていることなど、戦前に書かれた本著に、今のネット社会や人工知能の発展などにも通じるような問題意識が見られたのも面白かった。 いつの時代もどんな偉大な思想家も、社会問題についてはその一つか二つ前の時代との比較になるので、どれほど科学が発達しても同じような問題意識は繰り返されるだろう。 それが歴史から学ぶ意義でもある。 最後に。 以前、成功か、幸福か、と問われた経験がある。 この本を読んで、要所はその問いでなく、その二つの分離と二項対立こそが問題なのだと教えられた。 しかし、もしその分離が社会や時代からくるものであるとしたならば、果たして個人の力や意識で乗り越えられるものなのか? 自分にとって、これはマキャヴェッリに次ぐ人生の問いだ。
【読もうと思った理由】 かなり時間は経ってしまったが、以前読んだ「行く先はいつも名著が教えてくれる」(秋満吉彦氏著)の中で、名著として紹介されていた書籍の中の一冊だ。(他の名著が気になる方は、上記書籍の感想欄に一覧を載せております)最終的には、秋満氏が名著として紹介していた12冊は、全て読みたく思っ...続きを読むている。その中で三木清氏の本を今回選んだ理由が、もう一つある。 それは、今から約100年前の1927年、岩波書店から日本初の文庫本が出版されたんだそう。ドイツのレクラム文庫という文庫を参考にし、文庫本というスタイルを、日本で初めて発案したのが、著者の三木清氏らしい。当時、三木氏は法政大学で教鞭をとりつつ、岩波書店で編集顧問のような仕事をしていたとのこと。現在も岩波文庫の巻末には「読書子に寄す、岩波文庫発刊に際して」という文章が掲載されているが、その草稿を手掛けたのも三木清氏だそうだ。実際いま僕が、購入する本のほとんどは、文庫本だ。そう考えると、三木氏が日本の読書好きに果たした功績って、とてつもなく大きい。今まさに、文庫本を読めることに対する感謝を噛み締めながら、本書を読み始めた。 【三木清って、どんな人】 (1897-1945) 1897年兵庫県生まれ。一高在籍時に、西田幾多郎の『善の研究』に強い感銘を受け、京大で哲学を学ぶことを決心する。当時一高を出て京大に進むことは極めて異例であった。この後、戸坂潤や西谷啓治、梯明秀など多くの俊英がこのコースをたどることとなった。 1922年からドイツに留学。当初ハイデルベルク大学のリッケルトの下で学んでいたが、翌1923年マールブルク大学に移りハイデガーから強い影響を受ける。さらに1924年フランスに移住。ハイデガーから学んだ解釈学的手法を駆使して、パスカル『パンセ』についての論文をパリの下宿で書き、『思想』に投稿。この論文がもととなり、処女作『パスカルに於ける人間の研究』が出版される(1926年)。 1927年、法政大学の哲学科の教授に赴任。この時期から三木は人間学を基礎とした独自のマルクス解釈を展開し始める。論文「人間学のマルクス的形態」などが収められた『唯物史観と現代の意識』を1928年に刊行。マルクス主義を哲学として理解するという三木の試みは日本近代思想史上画期的な出来事であり、当時の日本の思想界に大きな反響を呼んだ。しかし、1930年に日本共産党への資金援助の嫌疑で検挙・拘留され、法政大学での職を退くことを余儀なくされる。 出所後の三木は多方面にわたって精力的な活動を行なっていく。1932年には『歴史哲学』を刊行。未定稿に終わったが『哲学的人間学』が執筆され始めたものこの時期にあたる。また、哲学的論稿・著作を発表すると同時に批評家としても活躍。1931年の満州事変の勃発を契機として日本の時代状況が暗転していく中で、「不安の思想」を新しいヒューマニズムによって超克することを試み(「不安の思想とその超克」(1933年)など)、時局に対する評論活動を積極的に展開する。さらには、「岩波講座哲学」、「岩波新書」などの立ち上げに尽力するなど文化人としても活躍。1937年に日本が中国との全面戦争に突入したことを背景として、三木は近衛文麿の政策集団である「昭和研究会」に参加。そこで指導的な役割を果し、東亜共同体論を展開していくこととなる。 三木はアカデミズムの枠をこえて積極的に時代と関わっていきながらも、哲学研究に対する意欲は旺盛であり、晩年には多くの哲学的著作が発表されている。1939年、『構想力の論理 第一』を出版。その続編である論文「経験」は同年から1943年にわたって『思想』に掲載され、三木の死後『構想力の論理 第二』として1946年に出版されている。この未完の『構想力の論理』が三木の主著であると言ってよい。また、『哲学入門』を岩波新書の一冊として刊行(1940年)。これは、三木哲学への入門書であると同時に西田哲学への最良の入門書である。その他には、『人生論ノート』(1941年)や『哲学ノート』(1941年)・『続哲学ノート』(1942年)、『技術哲学』(1942年)などがある。 しかし、1945年6月12日、治安維持法の容疑者をかくまったという嫌疑により検挙・拘留される。戦争終結後の1945年9月26日、豊多摩拘置所で疥癬(カイセン)の悪化により獄死。享年48歳。この三木の非業の死をきっかけとしてGHQは治安維持法を撤廃したとされている。残された遺稿は『親鸞』であった。 【本書概要】 死について、幸福について、懐疑について、偽善について、個性について、など23テーマある。ハイデッガーに師事し、哲学者、社会評論家、文学者として昭和初期における華々しい存在であった三木清氏の、肌のぬくもりさえ感じさせる珠玉の名論文集。その多方面にわたる文筆活動が、どのような主体から生まれたかを、率直な自己表現のなかにうかがわせるものとして、重要な意味を持つ。 【感想】 2022年時点で発行部数200万部を超えるベストセラーなので、気づきが多く、今後の人生において、ためになる言葉が非常に多い。だが一点注意点がある。 この本を執筆していた時代が、1930年代であり、国家総動員法が制定されていた時代。なので、個人が幸福を追求するといった言動は、人前では語れない重苦しい雰囲気が、世間に溢れていた時代だった。よって、普通に表現しても、検閲されて出版が難しいと感じた三木氏は、哲学用語を駆使して、敢えて難解な言葉で、このエッセイを執筆した。なので本のページ数だけでいうと、170ページ程のかなり薄い本だが、内容をしっかり理解して読もうとすると、かなり時間が掛かってしまった。 ただ、23項目のテーマごとに区切られているので、少し手が空いた時間に、少しづつ読み進めることができたところは、かなり有り難かった。以下、自分なりに感銘を受けた部分を記します。 (幸福について)(P20) 愛するもののために死んだ故に彼らは幸福であったのではなく、反対に、彼らは幸福であった故に愛するもののために死ぬる力を有したのである。日常の小さな仕事から、喜んで自分を犠牲にするという行動に至るまで、あらゆる事柄において、幸福は力である。徳が力であるということは、幸福の何よりもよく示すところである。 哲学といえば、幸福や幸せの定義について書いてある本が、もしかすると最も多いのではないだろうか?そもそも哲学とは、形の見えない概念的な事象を、どう定義するかの学問だと、僕は現在思っている。そういう意味で言うと、幸福とか幸せになりたいと思っている人たちが、ほとんどではなかろうか。まさか敢えて、不幸になりたいなんて人は、極々少数派だと思う。今まで何冊か哲学書や思想書を読んできたが、「幸福とは力である」と言い切っている本は、僕は初めて出会った。なので、結構この言葉は僕にとって衝撃的な言葉である。 また、以下に書いた言葉が、僕が本書でもっとも腑に落ちた言葉だ。それは、「人格は地の子らの最高の幸福であるというゲーテの言葉ほど、幸福についての完全な定義はない。幸福になるということは、人格になるということである。」という言葉だ。実は、日々の目標ノートをつけているが、そこによく記している言葉がある。それは、「自分の人格レベルを上げることが、幸せになるもっとも近道だ」である。なので、三木氏の上記の言葉に触れた際、かなり嬉しかった。まるで自分の考えが間違っていなかったと、言ってくれた様に感じたからだ。 (習慣について)(p34) 「人生において或る意味では、習慣がすべてである。」と、習慣のテーマの冒頭で三木氏は言っている。まぁ、若干言い過ぎのところはあると思うが、僕も習慣は、めちゃくちゃ大事だと思っている。最近読んだ、伊坂幸太郎氏の「逆ソクラテス」の感想欄にも書いたが、嘘でも何でもなく「信頼と習慣」は、僕の座右の銘である。なので、日々つけている目標ノートにも、習慣に関しても記している。「良いと思ったことは、習慣化できるまで毎日やり続けよう」と。習慣化してしまえば、無意識レベルでもその行為を行えてしまうのが、最大の利点だと思っている。また三木氏は習慣について、別の視点から以下のようにも記している。 「習慣が技術であるように、すべての技術は習慣的になることによって、真に技術であることができる。どのような天才にも習慣によるものでなければ、何事も成就し得ない。」とある。そう、大事なことは、いかに重要なことを習慣化できるかが、今後の人生において凄く大切な事だと、改めて気づかせてくれた。 (怒りについて) 「ひとは軽蔑されたと感じたとき、最もよく怒る。だから自信のあるものは、あまり怒らない。(中略)ほんとうに自信のあるものは静かで、しかも威厳を具えている。それは完成した性格のことである。」 上記に書いてあることは、本当にごもっともであるし、すべて正論だと思う。だけど軽蔑された時に感情がまったく動じず、普段通りの平常心でいることは、現在の僕ではまだ無理である。恐らくだが軽蔑されることは、自分の存在価値を否定されることと、ほぼほぼ同意であると、現在認識している。なので、人間の本能として軽蔑された際に、脳内で大きなアラートが鳴り響くのだろう。「目の前の人間は、自分にとって危険人物である」と。そこを何とか改善したく、数年前、草薙龍瞬氏の「反応しない練習」を、それこそ何度も読んだが、自分が軽蔑されたときは、どうしても心が反応してしまう。まだまだ修行が足りないと、本書から再認識させてもらえた。 (健康について) 「何が自分の為になり、何が自分の害になるのかの自分自身の観察が、健康を保つ最上の物理学であるということには、物理学の規則を超えた智慧がある。私はここに、このベーコンの言葉を記すのを、禁ずることができない。」とあるが、ベーコンでいくらwebで検索しても、その名言は出てこなかった。出どころは不明だが、奥が深く自分的には胸に刺さった言葉だ。またその後に三木氏はこう記している。 「誰も他人の身代わりに健康になることができぬ、また誰も自分の身代わりに健康になることができぬ。健康は全く銘々のものである。そしてまさにその点において、平等のものである。私はそこに或る宗教的なものを感じる。すべての養生訓は、そこから出立しなければならぬ。」とある。まだ書いてあることの半分ぐらいしか腑に落ちていないが、本書に記載されている言葉の中で、今後自分の中で、理解したい言葉の一つになった。 【雑感】 次は、島崎藤村氏の「破戒」を読みます。この本は、ロシア人YouTuberの方が、オススメしていた本です。その方は、ロシアの有名どころの作家(ドストエフスキーやトルストイなど)は、全作読んでいるのは当然として、日本近代文学も、日本語でも読んでいるという。日本近代文学もかなりの作品数を読んだ中で、この「破戒」が最も感動したんだそう。そんなことを言われれば読みたくなるに決まっている。差別をテーマにした作品であることぐらいは知っていたので、今作を読む為に、網野善彦氏の「日本の歴史を読みなおす(全)」(ちくま学芸文庫)を読み直した。日本人ではないロシア人の方が、日本の差別問題をテーマにした本を読んで、感銘を受けたという。かなり期待して読みます!
薄い本なのに、読み進められないところがある。 そう思うと、あまりの言い分に首っ引きになってしまう項がある。 1つ1つのカテゴリー、例えば生や死、娯楽といった分野ごとに話をまとめてくれているので、どこからでも読むことができます。 なので、★5をつけていながら、ほとんど読み込めていないところもありま...続きを読むす(きっと10年後にはそこに興味がいくかもしれません) 座右の書にあげたのは、かれの言い分が自分の価値観を壊してくれたからです。 特に娯楽に関する項目は、「娯楽は仕事の疲れを癒やしてくれるもの」「娯楽だけで生きていけるなら、こんなに素晴らしいことはない」と風潮していた20代、30代を笑い飛ばす。アカデミックな視点をくれました。 ミニマリストに通じる観念もあります。余分なものをもたない、余分に考えない。 シンプルに、日々口に糊する生活であっても幸せはある。 それを書面で教えてくれる、良書です。
一回だけでは、全てを理解しきるのは難しい。 けど、今の時代に必要なことがそれぞれの要素として短くも濃くまとまっている。 そのときに必要だと思った項目だけ読むのだけでもいいと思える。 生きることで起こりうるものであり、何が自分達にとってふさわしい生き方であるのか、よく考えてみたいときには推奨できる...続きを読む。
2018/5/31 幸福と成功の違いに関する説明が明解で分かりやすく、納得できた。幸福は自分が尺度になり、成功は他人が尺度になるということ。
ちょっと思い悩んだとき、或いは気になることがあったときにページをめくると、スッと気持ちが落ち着く本。どのテーマも身近なものばかりだけど、気軽に読めるというわけではない。哲学者だけあって、難しい表現もあるので、一度読んだだけでは自分のレベルでは理解できないことが多かった。 この本は手元において、何度も...続きを読む読み続けるとじんわりと温もりを感じてくる。そうかぁ、これが味わい深い表現ってことなんだ。素敵な文章が散りばめられている。
「哲学・思想という分野に興味はあるが、とっつきにくい」 という固定概念があったがこの本は大正解。 難解なカタカナ用語が時々出てくるが、抽象的な表現はなく非常に具体的で簡潔。先人の思想や著者の自説を交えながら日常的に使える考えやヒントが豊富。 戦前の著書だが、システムや価値観が多様化した現在の方がしっ...続きを読むくりくるような提言ばかり。 ハンパな自己啓発本よりもはるかに価値ある一冊。
普段自分が持つような疑問、考えに真正面からこたえてくれる。文体も量も読みやすく、感銘を受けた文章がたくさんある。これから何度も読み返したい。「君たちはどう生きるか」と並ぶ、個人的に枕元にでも置いておきたい一冊。
「死は観念である、と私は書いた。これに対して生とは何であるか。生とは想像である」 ・・・わからん!!!!!!!!! 死や、幸福、怒り、孤独、成功、嫉妬、偽善などのテーマについてそれぞれの考察が短く書かれておりますが、 ・・・・わからん!!!!!!!! 十年後読んでみて、一文一文がす...続きを読むごく心に突き刺せいます
170ページちょっとの薄い本。 だがしかし、内容が濃い。 私の場合は精神年齢が本に追いついていないせいか 内容を理解するのに時間がかかりました。 昭和二十九年発行。 当時の学生さんはすんなり本の内容を受け入れていたのかと思うと、昔の人々の成長スピードの速さに驚かされます。 この本が難しく感じる理由...続きを読むとして、具体例がないことが挙げられます。 使っている単語が難しい(なじみのない言葉)上に、具体例がないので、文章から自分の経験に落とし込んで理解する必要がありました。 (辞書引きながら本読んだのは学生の時以来です) 正直、著者の言わんとしていることを全て理解できたかというと?です。1/3くらい理解できた感覚かなぁ。 この本で得た気づきは以下です。 ”他人の幸福を嫉妬する者は、幸福を成功と同じに見ている場合が多い。幸福は各人のもの、人格的な、性質的なものであるが、成功は一般的なもの、量的に考えられ得るものである。だから成功は、その本性上、他人の嫉妬を伴い易い。” 幸福と成功は同じものであると、長年ごっちゃにして生きてきましたが、そうではない!のです。 幸福と成功は別物であり、別の性質を伴うものだと説いています。 長いこと、他人の成功を嫉んできましたが、幸福と成功を同じものとして考えていたからなのかもしれません。 (結構多いんじゃないかな~) 他人の成功を素直に喜べる人は、幸福と成功の違いを理解して腹落ち出来てる人なんじゃないかな、と感じました。 では、他人の成功を嫉妬せず、自分には自分の幸福があると自信を持つためには?? ”自分で物を作ることによって。嫉妬からは何物も作られない。人間は物を作ることによって自己を作り、かくて個性になる。個人的な人間ほど嫉妬的でない” と、著者は説いています。 嫉妬からは何も生まれない。嫉妬するくらいなら行動しろって事ですね。 久しぶりに体力の使う本を読みました。 数年後読み返したら、今とは違った感じ方をするのかもしれません。
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消息一通 一九二四年一月一日マールブルク
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