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「掏摸」という言葉は、「獏」の文字に似ているからか、まるで動物の名前のように見える。この小説は、生活のための掏摸ではなく、掏摸という行為そのものに生きる男の話だ。無意識に取り、変装資金のために取り、愛する人が死んだ悲しさで手当り次第に取る。これはいわば「掏摸」という動物ではないか。
まず興味を惹かれるのは、華麗なる掏摸の技術の数々。標的探しから証拠隠滅まで、ルポルタージュのように闇の世界が描かれる。一般市民は身近に潜む危険にぞっとし、思わず財布の所在を確認してしまうだろう。
また、感情を排除した淡々とした描写が、読者を物語の深みへ引きずり込んでいく。財布を抜き取る手先の微細な緊張まで伝わってきて、その手を相手につかまれた瞬間は本当に身の毛がよだった。主人公の行いは、善か悪かで言えば間違いなく悪である。それでも読み進めるうち、彼のミッションの成功を我がことのように手に汗握って祈るようになってしまう。もちろん、自分の財布は鞄の底へ押し込みながらだけれど。
Posted by ブクログ
天才スリ師の生き様を描いたノワール小説。めちゃくちゃ面白かった。
両利きのスリ師すげえ。
主人公が一人称「僕」なので、主人公が知り得た情報しか読者にも知らされないのがとても効果的でスリリングな読み心地を与えてくれた。何を書くかより、何を書かないかが徹底されていて、そのまま話が進むので主人公の不幸な境遇がそのまま体に入ってくる。極悪人の木島にスリを強要され、何を盗めば良いかわかっても、それがどう使われるのか全くわからない。木崎はとんでもないことをしているのは間違いないのだが「知ろうとするな」と一蹴されるのが痛快だった。クズと悪党しか出てこないアンダーグラウンドすぎる1作。
あらすじ。
主人公は東京でスリをして暮らしている。その手捌きは凄まじく、金持ちそうな男を見つけては尾行して財布をスっている。スった財布は指紋を消してポストに入れると、身分証などから落とした本人の元へ届くのだという。
主人公は過去にスリではなく強盗にも関わったことがある。犯罪で繋がった石川、立花という仲間と共に、資産家の爺さんの家の金庫を盗むミッション。金庫にある金は脱税したものであるため、警察沙汰にはならない。3人に与えられたのは爺さんの愛人の女性が大声を出さないように縛ること。強盗自体は同行した名前も知らない男たちが実行し、報酬の500万円を受け取って別れた。
命令したのが悪の親玉である木崎だった。木崎は明かしていない主人公の名前や過去を全て知っていた。この男と関わったらいけない、そう思い東京を出た主人公だったが、やっぱりスリをするなら東京だと考えを改め、戻ってくる。そして財布をスった相手がなんと木崎だった。
主人公は、東京での暮らしの中、ある親子と出会っていた。その母は子どもにスーパーで万引きをさせていた。主人公は万引きG面にバレていることを見抜き、捕まえられる前にやめろと言う。それから子どもがなつき、絆が生まれていく。
主人公は木崎にほぼ無理ゲーな、新しいミッションを与えられる。失敗したら、その親子二人を殺すと言う。脅迫を受けた主人公は無謀なスリへ身を投じていく。さて逃れられない運命にどう抗うのか——
Posted by ブクログ
何が善で何が悪か
何千年も前から持ちかけられるこの問いに正解はないんじゃないか ふと思ってしまった。
試験などもありまとまった読む時間取れず
約1週間で読破
私は常に逸脱“は”しないようにという指針で生きてきたので全く持ち得ない価値観の物語であった。
これを読まずに生きていくと一生持ち得ない価値基準であっただろう。
誰かの人生を掌握する快感 自分の行動が日の目を浴びる快感 失敗できない緊張から得る快感
少しわかってしまうのが怖く、のめり込むようになった。
少年からして主人公は生きる術•居場所•優しさを教えてくれた人であるが彼が公的に世の中に出る時は極悪犯となるだろう。そこに生まれる齟齬が社会でありいい意味でも悪い意味でも単純な物は存在し得ないのだなと感じた。
王国 読みたい。
Posted by ブクログ
ずっと積読状態だったので、読んでみた。
主人公は天才スリ師。
身なりのいい人間をターゲットに、息をするように財布を盗み、中身のお金を抜き取る。
目的も生き甲斐もなくスリをし続けるだけの生活をしていく中、木嶋という謎の男に目をつけられる。
木嶋は、目的を果たさなければ自分を〇すという。
絶体絶命の中、彼は生き延びることができるのか?
あらすじだけみると大層派手な展開を期待しますが、作風はどちらかというと静かです。
スリの動作一つ一つや、その瞬間瞬間の心の揺れがとても具体的に描かれて、派手では無いけど読んでいて緊張感があり、肩に力が入りました。
木嶋という男が、世の中の底が見えない闇のような存在で、彼については全てが不明。
そんな恐ろしい存在から、訳がわからないまま命だけが握られた状態で指示を受ける主人公に、同情しました。
今作については、世界線が一緒?の作品があるとのこと(王国)なので、是非読んでみたいです。
Posted by ブクログ
大きな物語の途中からの話を読んでいるようだった。しきりに女の人の名前(忘れちゃった)のことを思い浮かべながら自分の現在の言動について向き合ってる描写があった。あとがきにあったように16章が物語の中核になっていたみたい。あの「塔」の存在は大人になってからはその女の人と照らし合わせていたのかな。「光が目に入って仕方ないなら、それとは反対へ降りていけばいい」割り切った生き方、だけど生きることへの強い渇望を感じた。掏摸に特化しているが、この主人公はきっと頭が切れるし器用で非常に優秀な人なんだと思う。その方向性が「反対へ降りていけばいい」にとことんなんだと思う。木崎?が言っていたように、強盗にも位があってバカじゃできない。悪いこととわかっているし、罪悪感もない、「子供」のような環境や育ちだったらその道に足を踏み入れ兼ねない。情が働いていた。終わりには希望の光が差すような、主人公らしくないのからしさ全開なのか、絶望的な状況だが、まだやり残したことがあるかのような生きることへの希望。
Posted by ブクログ
スリをしながら生きる主人公が、過去に、ある男達の強盗の補助をする
その時の元締め木崎に3つの仕事をするよう脅される
孤独な主人公が行くつく先はー破滅か
主人公にとって生きている世界は硬く強固で、縛りのあるもののようで、他人の物を盗む行為だけが周囲を流れるあらゆるものから自由になれる、暖かで確かな温度をもったものだった
スリをしながら退廃的に生き、自分の人生において消えてほしくないものがあり、消えてほしくない人間のことを想っている
主人公の心の中に現れていた塔
あらゆる価値を否定し、あらゆる縛りを虐げる行為の象徴
「全身の力を使い、コインを指で挟んだ。遠くには、高く立つ、霞んだ塔があった。」
私には、主人公が硬く強固だった世界に抵抗し、挑んだように感じた
⋯生きていてほしい、と願わずにはいられない
Posted by ブクログ
テスカトリポカを読んだ時も感じたけど、残虐な行いの背景に「神」だとか「運命」だとか書かれていると、不思議と神秘的な思いにとらわれ、善悪の境界があいまいになる。
今回も木崎のセリフでそのように思った。
スリは犯罪と重々承知だが、スリの技法の部分がとてもスリルがあって楽しかった。
失敗するかもしれない時、「僕」がとっさの判断で相手にスキを与え、結果スリに成功する描写がとてもワクワクした。「僕」は天才スリ。土壇場にどう切り抜けるかの引き出しを沢山持っているのだろう。
そもそもの主題「運命とは?」に関しては、全くピンとこない。あの少年を守りたくて木崎の要求を飲まざるを得ず、木崎が想定以上のワルで単に騙されただけの話に思う。
最後に、500円硬貨を放って通行人に気づいてもらい、どうか「僕」の命が助かって
あの少年と再会してほしい。そして、少年の母にこれっぽっちの同情はない。
続編のような形で「王国」という小説があるのをあとがきで知ったが、読んでみたいけど木崎がむかつきすぎてどうしようか迷っている。
以下印象に残ったセリフを記録しておく。
「その後に自分が死ぬのは明らかで、僕はなぜか、そうなりたくないという、強い思いに囚われていた。何が自分を引き止めるのはわからなかったが、失敗を避けて動いたこと自体、自分がこの世界の何かに、執着しているのを意味した。」
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