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Posted by ブクログ
絶対音感とは音楽性と違い、手段。相対音感(調性感)が重要。音とは結局、人と人との間の空間をどれだけ大きく揺るがすことができるかという超能力の様なもの。発せられた音だけを表現だと思うのは、鑑賞者である。創り手にあっては、物理的な音現象が始まる前に、その音が欲しいという欲求がすでに自分の中で立ち上がり、発せられた第1音が自分に変化をもたらす。その変化が次の音を生む欲動へと螺旋状につながっていくことが、演奏という行為である。創り手が意識せずとも持っているイリュージョンが、鑑賞者の心といかに接近し、触れ合い、交差するかによって、そのメッセージが意味を持つ。
Posted by ブクログ
絶対音感についてのルポです。
音感の付け方の本、というよりは、音感がある人はどんな世界で生きているの?とかそのような謎に向かった本です。
実際に音感がある人への取材や脳の働き、はては戦前の音楽教育の話まで様々な角度からの考察が面白いです。
音がわかるって、どんな音でも音符に直せてしまうのだろうか。これは音感が無いとある人の意見。
音がわかる、というのは普通のことだと思っていたし、もてはやされるほどのことではない。これは音感のあるとある人の意見。
私は実際楽器の音くらいしか聴いて音名を当てられないのですが、でもやはり後者の意見と同じく音名で聴こえてくるのは普通だと思っていました。
そういう違うサイドの人の意見を知ることも出来るし、他にも色々な「種類」の絶対音感についてでてきたり、音感に固執する日本人のことなど、へー、と思えることが載っています。
読み物として純粋に楽しめました。
Posted by ブクログ
最相葉月(1963年~)氏は、関西学院大学法学部卒、広告会社、出版社、PR誌編集事務所勤務を経て、フリーのノンフィクションライター。本作品で小学館ノンフィクション大賞(1998年)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞(2007年)、大佛次郎賞、日本SF大賞等を受賞。
本書は、1998年に出版、2002年に小学館文庫で文庫化され(現在絶版)、2006年に新潮文庫で再版された。
内容は、ライターになってから「絶対音感」という言葉に初めて出会った著者が、その言葉に強く惹かれて、その「絶対音感」に関して、音楽家や科学者等200人にインタビューを行い、それについてまとめたものである。取材の対象となったのは、バイオリニストの五嶋みどり、五嶋龍(及び、みどりと龍の母の五嶋節)、千住真理子、指揮者の佐渡裕、大友直人、作曲家の三善晃、ミュージシャンの矢野顕子、ギタリストの渡辺香津美、等、錚々たる人々である。
前半では、絶対音感とは何か?、絶対音感の有無は先天的なものか後天的なものか?、日本の絶対音感に関わる音楽教育の歴史、絶対音感に関する脳科学的研究・分析等が記されており、それによれば、絶対音感とは、ある音を聞いた時に、その音が音名・階名で表現できる能力のこと(一方、相対音感とは、基準となる音を与えられた上で、ある音の高さを認識できる能力)であり、その能力は、幼少期に言語を習得するのと同じようなプロセスで、(後天的に)身に付けることが可能と考えられている。(もちろん例外もあろうが)
そして、その絶対音感を持つことが、一流の音楽家になるために不可欠(又は、圧倒的に有利)なのかについては、興味深いことに、少なからぬ音楽家が、「絶対音感は持っていたほうがいいのかどうか、よくわからない」、「絶対音感はあってもいいし、なくてもかまわない」と語っている。その理由は様々だ(と思われる)が、私が本書で初めて認識したのは、音階を作るための音程を数学的に規定した「音律」には、ピタゴラス音律、純正律、平均律等があり、それぞれにより微妙な音程(周波数)差があることと、更に驚いたのは、基準音が、国やオーケストラによって異なるということ(A音の周波数について、日本の主要オーケストラは442ヘルツ、ベルリン・フィルやウィーン・フィルは445~446ヘルツ、イギリスは440ヘルツ、アメリカは440~442ヘルツ)で、そのいずれについても、精緻な絶対音感を持っているほど(それを、即座に微修正する能力まであれば別だが)、違和感を覚えることになりかねないのだ。
更に、後半では、絶対音感というテーマから徐々に、そもそも音楽とは何なのか?、素晴らしい音楽がなぜ人々を感動させるのか?という問いに移行していくのだが、様々な材料は提示されるものの、解答が示されているわけではない。著者は、文化人類学者のレヴィ=ストロースが『神話論』に記した「音楽は人類究極の謎であり、音楽の謎が解き明かされれば人類進化の謎の多くも解かれる」という文章を引用して、その答えが示されるのは遠い将来のことだろうとしている。
絶対音感とは何かを解き明かしつつ、音楽とは何かという究極の問いを我々に投げかける、力作ノンフィクションである。
(2022年10月了)
Posted by ブクログ
原著は1998年刊行。
それからほぼ四半世紀経つ。
たしかに、脳科学も、知覚系の心理学、AIも(まだ「人工知能」という呼び方しかしなかったころだ)、執筆時とは状況が大きく変わっているに違いない。
また、終盤に出てくる五嶋龍少年は、今や世界で活躍するバイオリンのソリストとなったことを思うと、時の経過を感じさせられる。
でも、この本は、今読んでも十分面白い。
多面的に、丁寧に、この問題を調査してあるからだ。
私はたぶん20年近く前に一度読んでいるはずなのに、前読んだ時よりもっと面白く読めた。
本書は、「絶対音感」と呼ばれている能力が、実際にはいろいろな側面やレベルに分かれるものであることをまず確認する。
音を聞いて音名を答えられるラベリングの力だけでなく、音程を捉える力、和声を聞き取る力、音高の違いを聞き取る力…。
絶対音感を持つとされる人の中にもいろいろなありようがあり、さらに能力間ではトレードオフの関係にありそうなものもある。
こんなふうに、本書では冒頭で絶対音感が多面的な力を指すことが整理される。
そして、それが社会で様々な理解と思惑を生んでいくことに論が転じていく。
こうした状況を俯瞰した上で、本書はなぜ日本の音楽教育の中で絶対音感教育がかくも「絶対」視されたのかを解き明かす。
このくだりが、今回読んで一番新鮮だったところ。
そして、それは裏返せば前読んだ時まったく印象に残らなかったところでもあるのだ。
それから、何に驚いたかというと、固定ド唱法と移動ド唱法をめぐる教育界の対立。
さっき、小学校の学習指導要領というものをネットで見てみたが、現状は小学校低学年で階名唱(移動ド唱法)が教えられているようだったが、実際どうなのだろう?
国内の事情以外では、現代音楽が調性を破壊した結果、絶対音感を必要とする音楽の作り方になっているという指摘も面白かった。
そして、そういった曲を指揮するためにも、音楽家の中で最も絶対音感を求められるのは指揮者なのだともあった。
この本では指揮者たちへのインタビューも多く、指揮をしながら何を調整しているのかが少し窺い知れるところも貴重なところだと思う。
なかなか面白い
幼児を子育て中で、気になったので読みました。
六歳までに身に付けないとつかない特殊能力、
音楽をやるなら絶対あった方が有利なのでは、
と漠然といい印象しか持っていませんでしたが、
日本で絶対音感が今の位置付けに至るまでの歴史や、
絶対音感を持つ当事者達の声などいろいろな視点から、絶対音感を視ることが出来面白かったです。
Posted by ブクログ
本書は、若き日のパステルナークと、彼の音楽の師であったスクリャービンとの対話を記すことからはじまります。パステルナークに音楽の道を断念させたものは「絶対音感」でした。その神秘的な能力を与えられなかった者は、そのことに苦しみ、与えられた者は人びとの好奇の視線を向けられて苦しむことになります。こうした事実が、絶対音感について語る者の口を重くしてきました。著者は本書を執筆するにあたって百人の音楽家たちに質問状を送ったものの、回収率は5割で、なかには白紙無記名で送り返してきたものや、あなたはなにもわかっていないという手紙が添えられたものもあったといいます。絶対音感を取り巻くこうした厚い雲を晴らすことが、本書の目標の一つだといってよいでしょう。
絶対音感を追求していくなかで著者は、戦前からの日本の音楽教育にひそむ問題にぶつかり、音楽と人間の関係をめぐる大きな謎を前にしてたじろぐ脳科学者たちの姿を知ることになります。最終章は、五嶋みどりと彼女を取り巻く家族とのかかわりをえがき、あらためて人間にとって音楽とはなにかと読者に問いかける内容になっています。
「文庫版あとがき」で著者は、「本書は絶対音感を礼賛したり否定したりする本ではありません」と書いていますが、こうした断り書きがなくても絶対音感について人びとが語りあい、音楽と向き合うことのできる状況を、著者は願っていたのかもしれません。
Posted by ブクログ
ノンフィクションの地道さ、堅実さ、らせん状に深まっていく真相。
こういう仕事をちゃんと待って、評価していくことが本当に大事だと思う。
当時、きっとすごく読まれたであろうけど、
最後まで読み切れなかった人もいるんじゃないだろうか。
ひとつの疑問やイメージから、丁寧に文献に当たり、当事者の声を聞いていく。
たどっていく道筋の中に、ぼんやりと「当たり前」と思っていたことに出くわしたり、
そのたびに、最初と同じようで違う場所から同じものを見る視点が加わったり。
絶対と相対、能力と修練、技術と表現力、環境や人間の成長の時期、
物理的な楽器というものを通じて生まれる誤差、
音を文字として読める力と、文字では読み切れない情感の範囲。
コンピューター(今ならAIか)の限界と、
人間の能力の、取捨選択における膨大さと何を選ぶかという早さの凄さ。
いろいろな要素が、調べる中で目の前に出てきて、
改めて、ここまで気付かなかった不思議に直面する。
ものを調べるってそういうことで、
行きつく先も、自分の予想なんてどんどん超えて止まらなくて。
この本1冊がここで終わっても、
まだまだ追及していくテーマ、新しい方法、視点は日々生まれていく。
でもこの地道に歩いていくしかない道にしびれを切らす人は多いだろう。
分からない人は「絶対音感」というお墨付きだけもらえれば
あとはすべて上手くいくと勝手に合点してもう次へ行く。
だますのなんて簡単だ。
学ぶ醍醐味、自分の頭のスペースが一気に開けていく快感、
自分で掴まなければ得られない充実感と実感、
その人にしかたどり着けない答え。
それを知ることで、自分がかかわらないいろいろなものに対しても、
すぐに答えが出ないことが分かるし、
一面からだけでは見えないことが分かるし。
判断を保留にしたまま余裕をもって考え、
出た結果を大切に大事にできると思うんだけどね。
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