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定年近い公務員の省三が、ある日家に帰ると、玄関ドアの鍵穴はどこにもなかった。妻を亡くし息子も娘も家を出て、家に入れない。省三は外泊を続け、今や住む人のない鎌倉の伯父の家に滞在する。懐かしいものに囲まれながら思い出すのは、父と伯父がかわす教養を根本に置いた会話、母や伯母のことなど、かつてそこにあった幸せな光景。すべては失われ堕落した末裔であると自覚した省三は、自らの系譜に思いを巡らせ、行動を起こす。
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Posted by ブクログ
「末裔」(絲山秋子)電子書籍版を読んだ。これは面白かった。シャガールの絵みたいな幻想的で淡く優しい光を感じさせるね。要約すると『わたしはどこから来て、わたしは何者で、そうしてわたしはこれからどこへでも行けるんだ。』って確認と再生の物語。適度な不条理さと適度なユーモアが絶妙です。
ある日自宅に帰ったら、玄関のドアから鍵穴が消えていた。家に「入れなく」なった省三が、家に「帰る」までにたどる長い長い時間的空間的な旅。絲山作品ならではの、いろんな土地の緻密な描写がここでも炸裂しています。行ったことのある街も違ってみえるし、行ったことのない街は行ってみたくなる。 離れて客観的に見るこ...続きを読むとによって、見落としていた本質的なものが見えてくることってあるよなぁ、と考えさせられた作品でした。
主人公は愛妻を亡くして人生に色がなくなったようなおじさん。私はもうすぐ三十路を迎える女ですが、この物語(というかふとした文章で)、めちゃ感じることが多くてよく泣きました。いつもは作者の痛快な描写にイイネ!と思うお話が多いけど、こういう不思議ななんともいえない郷愁を感じるお話もグッときました。私に合っ...続きを読むてる作家さんなんだな、と思いました。
ある日とつぜん鍵穴が消えて、家に帰れなくなる男の話。安部公房の『赤い繭』を思い出した。 「鍵穴はどこにもなかった」。そんな調子でしれっとSF風に導入したかと思いきや、物語が進むにつれところどころに日本の近現代史の知識欲をかき立てる世代論を交え、思いがけない風景を見せてくれる。とても味わい深い読書だ...続きを読むった。 この作家は、女流作家の中で随一に男性の一人称がうまいと思う。団塊の世代のいわゆる「日本のオヤジ」の自意識にリアルに寄り添える力量に感心する。 備忘録: 「自分たちの世代は、若い頃もっと、社会と密接につながっていたと思う。省三(主人公)が月のように、社会の周りで満ち欠けしているとしたら、朔矢(息子)や梢枝(娘)は彗星のようにとんでもない速さで社会から遠ざかり、また還ってくる軌道を持っているようなのだった」 「不思議なもんだ。同じとき、同じ山に降った雨が太平洋と日本海に分かれちまうんだから。山というのは、境界というのはそういうものだ。矢印の根本のことなんだ。そして人間も雨水と同じように拡散し、混じり合い、ついにはどこの由来だかわからなくなってしまう」
家に入ろうとしたら、鍵穴が無くなっていた。入れない。 その瞬間から、不思議な場所、人達との出会いが始まる。 放浪の末に、手に入れるもの、気づくこと。 深い。
絲山さんが長編を書くとこうなるのか、という新鮮さ。 何にしても絲山さんの小説に出てくる人物は当たり前の感性を当たり前に具えていて、それなのにちゃんと一人の人間であるというあたりまえの個性があって好き。 定年間近、妻を数年前に亡くし子供二人も自立して家にはいない。そんな家(ごみ屋敷)の鍵穴がある日突...続きを読む然塞がってしまい、入れなくなる。 現在の「家」に入れないのなら自分が属するもうひとつの「家」をたどってみようと思うのは自然な流れかな。 この人大丈夫なんだろうか、と思って読み進めていたけど最後は明るく終わってくれて安心した。
「鍵穴はどこにもなかった。」 この一文から始まる。 安部公房の路線だろうかと首を傾げつつ読み進めるに、個人とか、家族とか、親族、先祖、遂には日本にまで至ってしまった。 そして至るも、日常へと戻ってゆく。 一つ一つの物事を昇華させ、残りも昇華へ導いていく。 なんとも不思議な感覚に陥る。 もう一度、じ...続きを読むっくりと読み返そう。
富井省三、乙。 不思議な話だったなー。 自宅ドアの鍵穴がなくなるなんて。 早く起きなきゃいけないのに、読むのをやめられず一気読み。 ビビりの自分にはちょっと怖くて、 ちょっととっ散らかってて、でもホッとして、高揚感もあって。 やっぱり絲山さんが好きだ。
現実と空想の境界がはっきりしていないのが逆に心地よい。 20年後の不安がチョットだけ解消? 携帯電話の赤外線通信を宇宙人の性交と表現、最高。
『沖で待つ』が良くて、それ以来、絲山さんの本を読むようになりました。 今回の末裔は、妻を亡くした中年男性が主人公。 家に帰ろうとすると、何故か鍵穴が見つからず、仕方がなく放浪する羽目になるってお話。 鍵穴が見つからないってところで、どういうこと?と思い、かつその説明がされないので、ずっとモヤモヤ...続きを読むします。 あ~久しぶりにハズレの本を引いたかなぁって思ったんですが、ジワジワと読み進められます。 んで、最後には、モロモロ納得できないところを吹っ飛ばして、冴えない中年男性が一歩踏み出す爽快感を味わえます。 自分も何かしよう!って気持ちにさせてくれる内容でした。 いや~良い本! こういう、ジワジワと感動させてくれる本は珍しい気がします。 自分の内側から鍵を開けるってところが印象的でした。
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