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いくら追い求めても、美への欲望には果てがない。私達は美しくなりたいというだけでなく「美しいものを見ていたい」という欲望も併せ持っている。
主人公のりりこもその一人。大人気モデルの彼女の身体はほとんどが無理な全身整形によるものだった。やがて整形の副作用により精神を蝕まれたりりこを中心に、美に憑かれた人々は大きな事件を巻き起こす。
ストーリーだけでなく、各所にちらばる幻想的な隠喩も見所だ。例えばりりこの夢の中に、現実世界でりりこを追う麻田検事が登場し「ぼくときみは前世である神父の同じ帽子の羽だった」と声をかける。そしてラスト、麻田は空から降った鳥の羽を見上げて手をかざす。これは2人がまた再び出会う運命にあることの暗示である(と勝手に解釈している)。
『ヘルタースケルター』は未完だが、「未完の完成作」でもある。この世に美への欲望が溢れる限り、物語は続くだろう。
Posted by ブクログ
これは持てるものと持たざるものの話だ。
一世を風靡するスーパーモデルりりこは全身整形の秘密を持ち、カメラの前では視聴者の理想通りの偶像を演じるが、ひとたびプライベートになれば付き人を性的に虐待し周囲に当たり散らすタチの悪い女。
何故彼女がそうなったのかがストーリーの進行と同時に紐解かれていくのだが、美しさを失うことに終始怯え続けるりりこの劣等感の根は深い。
美しさを失うのが怖いのは、それが偽物だとわかっているから。自分は賞味期限付きのパチモノだと痛いほど理解しているから。
後半、りりこの対比となる「正統な美」を生まれ持った若いモデルが登場するのだが、彼女のセリフがまた素晴らしい。
こずえは生まれながらにライオンであるからして、ライオンの皮を被ったキツネの気持ちがわからない。
この物語のすごいところ、そして怖いところは、りりこ自身がいずれ視聴者に飽きられると達観しているところ。達観すれども受け入れられない彼女の、周囲を巻き込んだ壮絶な悪あがきが何百ページにもわたって描かれる。
はたして私達は一年前に売れた芸能人の名前を思い出せるだろうか?
二年前、三年前は?
そんな思い出してさえもらえない一過性の人気のために、自己顕示欲と結び付いた自己承認欲求のモンスターとなりはて、文字通り骨も見も削るりりこ。この漫画の登場人物すべてが等しく愚かで、浅ましく、滑稽だ。
SNSに顕著であるが、私たちはもはや他人の目なくして自分の存在ありえないところまで行き着いてしまったのか。
りりこは他人見る故に我在り、こずえは我思う故に我在り。外と内どちらに依存するか、両者の違いは大きい。
ベクトルの方向性を間違えば、だれもが容易にりりこのようなモンスターへ堕ちていく。
人は足るを知らない生き物だ。整形は癖になるというが、痛みを感じる心を整形できないのに、皮一枚だけ整えた美に何の意味があるのか。
ラストシーンは賛否両論だが、私は己に一番近い人たちを道連れに行き着くところまで行き着いたりりこに、開き直った清々しささえ感じた。
悪くないラストだ。
Posted by ブクログ
岡崎京子が描く女の子はいつだってリアルだ。
「自然体で」「私らしく」「ありのままで」なんて、最近よく聞く耳ざわりのいい、でもどこか空虚なコトバも、岡崎京子にかかれば一刀両断だ。
「バーカ!! なわけねーだろ!!」
「あたしがどんな思いで 今の体重をキープしてるか」
「お腹すかせて目が冴えて眠れなくて スイミン薬飲んでも眠れないとか」
「どんだけ時間とお金をかけて この白い肌を守ってるかとか」
「あんたたちに分かってたまるもんか!!」
りりこは自分が使い捨ての商品だということを知っている。しかも消費期限は恐ろしく短い。身も心もぼろぼろになりながら、それでも彼女はチキンレースから降りようとしない。誰よりも優れた商品であるということ以外に、自分の存在価値を見いだせないからだ。破滅につながるレースと分かっていても、まずそこで勝ってみせないことには、人格すら認められないのが世の常だからだ。もっとも勝ったからといって、心の平穏が得られるわけではない。いったん勝った者には、次は「勝ち続ける」という、さらに困難な課題が待ち受けている。
麻田検事のように、最初から他人の評価など気にしなければいいのかもしれない。けれど凡人にはそれが何より難しい。だからフツーの女の子たちは、「勝ちたい」と「ありのままで」の間を、ヘトヘトになりながら行ったり来たりする。いよいよ疲れてくると、「ありのままの自分で勝ちたい」なんて虫のいいことを考えてしまったりもする。
その点、良くも悪くもりりこは潔い。そんな甘ったれた考えは微塵も持っていない。
「生まれたときに決定されたもの? そんなの踏みつぶしてやったわよ」
「びしょぬれの同情なんかいらないもの
だとしたら無視されるか 笑いものになった方がましよ」
そう言い切るりりこの覚悟は痛ましいが、どこか爽快でもある。読み進めていくうち、いつしか彼女に声援を送っている自分に気づいた。
つまるところ、私たちみんな、誰でも少しは「りりこ」なのだ。妄執のために虎に変身して山奥に引きこもった男の話があるが、現代日本の女の子たちはココロに虎を棲まわせたまま、なんにも知らないような顔をして、クレイジーな日常を生きていかなくてはならない。
麻田検事が言うように、「この街はちっちゃなタイガー・リリィでいっぱい」なのだ。
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