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1973年、12歳の少年は、熱に浮かされたように、日本全国への旅を始めた。デゴイチ(D51)やシゴナナ(C57)と呼ばれた、消えゆく蒸気機関車を追いかける旅の中で、少年は「忘れえぬ人びと」「忘れえぬ風景」と出会う。中学卒業までの4年間に繰り返した旅を通して、少年の「世界」は広がっていく。著者初めての回想記。
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Posted by ブクログ
小説家 黒川創さん(1961年京都伏見生まれ・刊行時60歳)が、小学校6年生から中学卒業までに実行した驚くほど多くの一人旅の記録。12歳から15歳の頃にこんな旅をしていたこと自体が驚きであるとともに、無邪気な田舎の少年にすぎなかった自分との成熟の違いにも目を瞠る。 バックグラウンドとしての家庭...続きを読むの状況(京都住まい・進歩的~左翼的両親)の違いはあるとしても、大人になるまで数えるほどしか地元の街を出たことがなかった私にとっては、ほぼ同時代(シラケ世代)である著者の旅をこの本で追体験させてもらうことで、自分が成しえなかった旅を64歳になって回想するようでもあった。読んでいる間はまるで著者になったかのような時間を過ごし、自分もまた小学校6年生から中学卒業の時間旅行をした思いだ。著者の旅の記録(膨大な数の写真・切符類・切手類)やその時代に書かれた文章も収載され、それによってますます著者が私に憑依する。 あとがきに書かれた独在論(ソリプシズム)とそこからの脱却の話を読むと「自分は今になるまでソリプシズムに囚われている」のかもと思ってしまう。この読書による追体験が自分の未熟さをも気づかせてくれた・・・かなり「もう遅い」感はあるが。
著者がローティーンだった頃の旅の記録。感傷を排した淡々とした記述と、曖昧な記憶は曖昧なままに、恥ずかしい出来事も敢えて記す姿勢が、彼の凛々しい膨大な回数の旅にふさわしい。世代が同じせいか、行ったことのない場所すら自分の懐かしい記憶のように感じられる。真面目で、それでいて鷹揚な良い時代だった。それぞれ...続きを読むの土地の歴史や人々の生活に向ける筆者の思慮深い目のおかげで、民俗史の1ページのような面白さもある。旅に出たくならずにはいられない。
著者が小学校高学年から中学を卒業するまでの、1970年代なかばの鉄道一人旅を、令和の時代から振り返って書かれた本。私よりも一回り年上の著者が記す少年時代の記憶は、子供の頃の自分が大人と認識していた人々の姿を記憶の底から掘り起こしてくれる。写真に残された、もしご存命なら現在70代から100歳以上の人...続きを読む々の、若々しい表情が眩しい。現在の著者からみれば恥いるばかりだと語られる、当時の著者の少年らしい生意気な行動を、時には叱りつつ、おおらかに許容する年長の人々が、皆それぞれに魅力的。
著者にしろ、原武史にしろ、自分とくらべると小学校高学年の時点において、思考、行動の点についてはるかに大人である。5~6年の時代の差よりも育った環境の差のようにも思えるのだが、その人間的な違いに愕然、呆然とするが、長じて達した立場の違いを考えれば、当然、当たり前のことかもしれない。
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