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少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘樹は、ある日、勤務先の全日本音楽著作権連盟の上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉桜太郎のもとに通い始める。師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り・・・・・・。第6回未来屋小説大賞、第25回大藪春彦賞受賞、第20回本屋大賞第2位。大反響を巻き起こした、心に響く“スパイ×音楽”長編。文庫版特典スピンオフ短編も収録!
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Posted by ブクログ
物語の結末に至るまで主人公・橘の人格を掴みきれず、何度も「橘はこういう人間だったのか」と驚かされた。
橘が過去のトラウマから自己開示が得意でない人物であることが、読者の私にも影響したのかもしれない。
ただし、これは主人公のキャラクター像が揺らいでいるという批判ではない。
これは、はじめ深海に深く潜ってしまっていたような橘が、浅葉という光に照らされて様々な角度から姿を現したというだけの話だと思う。
また、深海にいた橘が浅葉と出会って光に導かれるまま浮上し、一度底へ沈みかけてまた海面を目指すような、変化し続けた物語だったからとも言える。
私が捉えきれない位の橘の感情の変化を浅葉は当たり前のように受け止め、浅葉の言動に影響された橘が更に変わっていく。
あくまで私の場合だが、橘の変化についていけなかった箇所もあった。だが嬉しかった。それが気持ち良かった。
読者という第三者が預かり知らぬところで講師と生徒が絆を深め、影響し合って、次の場面では知らない橘がいる。そのおかげで、橘は凝り固まったキャラクターでは無い、その世界に生きる人間に見えたからだ。
孤独に会社の地下で働き俯いたままだった橘樹という人間が、音楽教室の3階で恩師と仲間と居場所を見つけ、自らの意思でその居場所に戻ってくるまでを見届けられて本当に嬉しかった。
未来を信じられるお話をありがとうございました。
Posted by ブクログ
文句無しの5.
感動した。この後の展開があるなら知りたい。
橘は全著連の社員で、音楽教室の教材としての曲の著作権についての裁判で優勢になるため、音楽教室の生徒として潜り込む。
そこで出会う先生や生徒とのコミュニティ、そしてチェロの演奏の楽しさを再認識する。
理屈や正しさ云々では、表せきれない
『講師の生徒のあいだには、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して代替なきくものではないのだ(p242)』のセリフがすごく素敵に、そして心に染みた。最後に信頼が回復方向に向かい、読み切ってなおこのセリフがより刺さった。
優しい人の信頼は大事にしたい。
Posted by ブクログ
スパイ小説と思って読んだら違った。いやスパイ小説だ。私が思っているのとは違うけどスパイが主人公だ。
私も大人になってから音楽教室に通ったことがある。私は不器用なので個人レッスンにしてもらい、3畳もないような防音室で講師からレッスンを受けた。あんな密室でスパイ活動だなんて私には絶対できない。と、まあ状況が把握できるだけに主人公にヒヤヒヤと感情移入をしてしまう。途中で「さっさと任務放棄しろ」「そんな会社辞めちまえ」と檄を飛ばしてしまった。小説なのにね。
実際にモデルとなった事件があったようで潜入調査員の精神的犠牲はいかほどかと察せずにはいられない。
良い本でも内容を忘れてしまうこともあるが、この本の感動はこの先忘れることはないだろうと思った。
Posted by ブクログ
スパイ×音楽
全日本音楽著作権連盟に勤務する橘樹が、大手音楽教室が著作権法の演奏権を侵害している証拠を掴む為潜入する。
その音楽教室のチェロ講師が浅葉桜太郎。
この浅葉がとても魅力的な講師。人間としても音楽家としても。浅葉の教え子たちもとても人間的にいい人ばかり。
精神的にも重くのしかかっていた橘の過去も、この浅葉との出会いで少しずつほぐれていく。
でも結局はスパイ。信頼と絆が出来上がってきたのに…とグイグイ読めて引き込まれていった。
チェロは決して派手ではないかもしれないが、重厚感があって豊かで深い音色が本当に美しい楽器だと思う。
この作品はチェロの魅力も人との関係性もよく描かれていて、深くて美しいなと思った。
上手く文章にできないのが悔しい。
Posted by ブクログ
幼少期にチェロを習っていた橘。誘拐されかけたことがきっかけで、チェロに触れることなく生活していた。
暗い深い光も入らないような深海の悪夢にとらわれ、チェロへの漠然とした不安は大きな飴色の楽器を見ただけで、わき上がっていた。
しかし、勤務先から2年間音楽教室への潜入捜査を命じられる。陰鬱で人間関係の構築が苦手がゆえに変な情を持たないだろう、たしかにスパイの仕事を遂行できるたろうと見込まれていた。
12年ぶりにチェロを握り、恐怖と懐かしさを覚え、徐々に没頭していく。チェロを弾くことに楽しさを感じ、もっと奥行きのある音を響かせたいと願う。私的なひとりの時間はチェロにあてて、チェロへの仄暗いぼんやりと膨らんだ恐怖を、チェロを弾くことで輪郭をくっきりと浮かび上がらせて漠然とした不安は剥がれ落ちていく。
音楽への熱意は本物なのに、音楽教室へ入会した自分は潜入捜査としてきた偽物である。そんな葛藤に苛まれていく。
音色の響きや心に染み渡るような旋律が、文字という視覚的なものなのに、五感に訴えかけてくる。豊かな比喩が色彩を伴って宿っている。
光も届かない暗い深海にとらわれている。時を待ちながら孤独にスパイをしている。そんなラブカは弓を握り、何を奏でるのか。
この物語で、私はラブカの音楽に身を委ね最後のページにたどり着いた。この先も逃げたり間違えたりしながら、素敵な音楽が鳴り続けるのだろう。
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小説・文芸
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