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十六世紀末、朝鮮の役で薩摩軍により日本へ拉致された数十人の朝鮮の民があった。以来四百年、やみがたい望郷の念を抱きながら異国薩摩の地に生き続けた子孫たちの痛哭の詩「故郷忘じがたく候」。他、明治初年に少数で奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」、細川ガラシャの薄幸の生涯「胡桃に酒」を収録。
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Posted by ブクログ
司馬遼太郎による鹿児島の陶工、沈寿官についてのエッセイ的な小説。 沈寿官と言えば、鹿児島では有名な陶工として知られています。彼の祖先は、秀吉の朝鮮出兵時に朝鮮から連れてこられた(つまり日本に拉致された)陶工でした。彼等は鹿児島に焼き物の文化を伝え、薩摩焼などの工業製品製造に貢献しました。 当時の日本...続きを読むは、先進国であった朝鮮から技術を導入しようと躍起になっていた時代だったようで、彼らは或る意味その犠牲者でした。その優秀な製陶技術は、時間の経過とともに日本の文化として取り込まれ、現在に至っています。日本文化成立の立役者であり、現在も子孫達がそれを受け継いでいますが、かつて拉致された朝鮮人としての本国に対する想いは、今も昔も変わらないと思います。 歴史認識問題が話題になる昨今ですが、この本を読んで、日本にはそういう朝鮮の人達の悲しい歴史があることを認識しなくてはいけないと思いました。
司馬さんの小説なんですが、半分は現代のお話。 そして、日本と朝鮮、戦争や民族意識という、デリケートなところに司馬さんの掌がそっと迫る一篇です。 短編集。と、言っても、3編しか入っていません。中編集とでも言いますか。 どれも相変わらず俯瞰的で皮肉めいて同時に人間臭くて、司馬遼節とでも言いますか。僕は...続きを読む大変に面白かったです。 ですが、まあ、何と言っても表題作が素晴らしかったです。 エッセイのような中編小説なんですが。 1590年代、つまり関ヶ原の戦いの直前に、豊臣秀吉さんによる朝鮮出兵がありました。 今から振り返ると、イマイチ良くワカラナイ無謀な出兵だった訳ですが、秀吉さんは本気で朝鮮半島そして中国大陸へ支配を広げるつもりだったみたいですね。 2度に渡る朝鮮出兵は、秀吉自身が渡海したわけではなく、部下というか傘下の大名が半島に渡って戦いました。 なんとなく膠着状態のまま、秀吉が死んだことによって日本側が撤兵、曖昧に終息します。 目的を達しなかったという意味では、日本/秀吉側の敗北なんですが、朝鮮側も被害は甚大だったそうです。 そして、このときに、多くの朝鮮人が、日本に拉致されています。 (と、言うと、とてもひどい話に聞こえます。もちろん、酷い話なんですが。 ただ、僕も最近知ったのは、戦国時代まで、日本国内でも戦争があった際には、敵国の住民を拉致してきて、自国内で奴隷として使っていたようです。 酷い話ですね。NHKの大河ドラマでは絶対に描けない(笑)。 まあただ、それに対して2015年の現在地から糾弾するよりも、 そういうコトだったんだ、という認識が大事なんだろうな、と思います。) この小説は、島津勢に拉致されて、不本意ながら薩摩で暮らすことになった朝鮮人の人々のお話。 というか、その人々は、朝鮮の陶工、焼き物を作る技術者の一団だったんですね。 そういう技術が欲しくて、恐らく島津が拉致しました。 色んなことがあって、その一団は薩摩内に集落を築いた。そして、白薩摩、黒薩摩という薩摩焼を作り続けた。 その一団の歴史の中の数奇な流転。 そして、執筆当時に司馬さんが出会った、その一族の末裔の男性・沈寿官さんの半生記ですね。 簡単に言うと、17世紀でも、20世紀でも、その集落のひとびとは、日本人(薩摩人/鹿児島県人)から、やっぱりそりゃ酷い差別を受けている訳です。迫害と言って良いです。 彼らはガイジン、チョウセンジン、という扱いなんですが、もうそれは何世代も前の話。 人並み以上に日本人、薩摩人のつもりでも、要所要所で差別を受ける。 それにそもそも、祖先にさかのぼっても、誰も好んで来てないんですね。戦争という暴力で、誇りも生活も家族も全て破壊されて、拉致されてきている。 でももちろん、差別されるばかりでもない。日本に薩摩に同化して、胸を張って生きている部分もある。 それでも結局、俺は何なんだ、日本人ってなんなんだ。そんなに日本人じゃないことは劣等なのか。 という…壮絶に重い主題につぶされるようにして思春期から大人になっていく。 昭和を生きている、司馬さんと交流した沈寿官さんの、少年時代からを振り返る言葉が、実に重い。 そして、何と言うか、上手く言えませんが、それを政治的に倫理的に白黒つけよう、という小説ではありません。 司馬さんですから。 ささやかにですが、大東亜戦争も含めて、被害者であることに拘ってはいけないのでは、と沈寿官さんが韓国の若者に向かってつぶやきます。 そして、沈寿官さんは、4世紀に渡って一族が憧れた、故郷に降り立つ訳です。無論、生まれて初めての、故郷です。 だからどうなんだ、という結論の押し付けは無く、最後は一幅の俳画を眺めてください、という感じでした。 とってもとっても、素敵な沁みる中編小説でした。 と、同時に。やっぱり日本は21世紀の今でも島国ですから。 住んでる場所によっては、ガイジンさんと会うことも滅多にないですし。ましては交流らしい交流なんて、したことないまま生涯を終える人も多いと思います。それが良いとか悪いとかは、別として。事実として。 そういうお陰で長所もあるんだと思います。 ただ、やっぱり外国籍の人、民族習慣歴史的に少数派として生きている人への、想像力というか寛容さというか、単純な認識が少ないこともあると思います。 (ま、多民族で暮らしている国民が寛容かと言うと、全く逆なので難しいところですが) (ま、あと、逆に国際的に活動されている人は、「俺は普通の日本人じゃないから」とすぐに周囲を見下す傾向があったりして微笑ましいですが) そういうことで言うと、とっつきが悪い小説かも知れません。 僕の読んだ感じでは、ほかの多くの司馬さんの小説と同じく、別段、右でも左でもありません。 誰かを何かを非難する訳でもありません。 ただでも、こういうことを、書きたかった。残したかった。知ってほしかった。そういうことなんだろうなあ、と。 司馬遼太郎さんは、東アジアの民族意識にはすごく鋭敏だったんだろうなあ、と。 若い日から、モンゴル語を学んだのに中国朝鮮を蔑視して戦うように言われ。 戦後は京都関西で仏教史、日本文化史を学んで。中国朝鮮の弟分のようにおこぼれで歩んできた日本史を知って。 そして、高度成長アメリカ万歳の時代を生きた人ですから。 ペンネームは、中国の司馬遷へのリスペクトですしね。 そして、この小説に感動した自分を振り返ると。 子供の頃に、自分の意思ではなくアメリカで暮らしたこと。 アメリカではアジア人・日本人として見下されたこと。やっぱりどうにも馴染めなかったこと。 そして、帰国した日本では帰国子女として異端視されたこと。やっぱりどうにも馴染めなかったこと。 そんな自分の過去が影響しているのかもなあ、と思ったりしました。 ##################### 他の2編は、 「斬殺」 幕末維新、戊辰戦争の頃。 新政府軍の末端分子として、わずか200ほどの手勢で「奥州を平定してこい」と送られた、長州の世良修蔵。 この人も小物で、勘違いや傲慢がはなはだしい。 この小物が、すったもんだして失敗して斬殺されるまでを描く。 「胡桃に酒」 戦国時代の細川ガラシャの一代記。 明智光秀の娘で、超超美人。そして細川忠興の妻となる。 この細川忠興が、実に異常、キチガイとも言えるやきもち焼き。ぞっとします。 ほとんど監禁されて暮らすガラシャ。キリシタンとの出会い。そして、関ヶ原の戦いの前に、敵軍に囲まれて壮絶な自殺。 両編とも、悲惨なように見えて司馬さん独特のユーモアにあふれた、読み易い好編でした。
白薩摩の沈寿官十四代との対話を通じ、異国の地で生き続けた子孫たちの370年を、ただ静かに紡ぎ出す佳編。他に細川ガラシャを描いた胡桃と酒などを併録。名作です。
母が勧めてくれた標題の沈寿官さんの話が、良かった。特に、彼の講演の下りは、とても泣けます。 短編で読みやすいし、下調べが丁寧で一つ一つがよくできた小説になっていると思う。 あと印象的なのは、細川ガラシャの話。強烈てした。 やっぱり、司馬遼太郎さんはいい!
司馬遼太郎さんの言葉は古びることなく生き生きと今ここで語りかけているように届く。 1976年に刊行された文庫の新装版。 16世紀末の朝鮮の役で日本に連れてこられた陶工たち、そのまま鹿児島で生き続ける子孫たちとの出会いと交流。 幕末の世情に翻弄され奥州遠征した一人の長州藩の男の最期。 細川ガラシャの生...続きを読む涯。 歴史を語りながら、多くのことを考えさせてくれます。
沈寿官、世良修蔵、細川ガラシャの司馬先生の講義。聴いているようで楽しかった。沈寿官、世良修蔵は知らなかったがとても興味深く、細川ガラシャと細川忠興の関係が思っていたのとは全く違う新解釈、司馬先生が正しい気がする。はちょっと驚く。
主人公である十四代沈寿官氏は、秀吉の朝鮮出兵で全羅道南原に攻め込んだ島津兵が撤退する際に、一緒に薩摩まで連れてこられた一族の末裔。 島津家は移民たちが定住した苗代川を藩立工場にし、薩摩焼の希少性を保つために、白薩摩を島津家御用以外では焼くことを禁じ、黒薩摩も御前黒は一般に流通することを禁じた。御前黒...続きを読むは、黄金の梨地が沈んだような玄妙な黒もので一子相伝の口伝とされていた。十四代沈寿官氏が御前黒の釉薬を探す話に触れられているが、山奥の人を訪ねて何度も足を運び、老齢のその人を背負って山へ登り貴重なその土を掘り当てるという、金脈を掘り当てるようなロマン溢れるエピソードだった。
『故郷忘じがたく候』 私が焼物が好きだからと母がこの本を勧めてくれた。薩摩焼が薩摩藩によって拉致された朝鮮人によるものとは知らなかった。パリ万博に幕府とは別に出展した薩摩ブースに展示されたあれもそうだったとは。自分には知らぬ事ばかり、と思う事しきり。本を読むとは、果てしなく面白い。 『胡桃に酒』 細...続きを読む川ガラシャについては色々知っているつもりでしたが、夫細川忠興の悋気(嫉妬心)の狂気たるや、凄まじい。たま(ガラシャ)が自らの容姿を罪という様に、忠興の狂気に触れ殺される罪もない人々も痛ましい。秀吉の『女房狩』も初めて知ったがおぞましい。 戦国の世に生まれた人たちは男も女も、身分の高低に関わらずその悲劇は数え切れない。その個々の人生を思うと、今の世が決して手放しで平和であると断定できないものの、『平和ボケ』と言う言葉を思い浮かべずにないられない。
故郷忘じがたく候 これは思わぬ程の深い話。秀吉時代に朝鮮を攻めた朝鮮ノ陣からの縁から拉致された韓国民が島津義弘に徴用され、薩摩焼の源流となり、もたらされた利益が倒幕の資金の一部のなったとのこと。子孫である十三代沈翁が韓国での演説で日韓関係を憂いての公演で拍手ではなく青年歌の合唱で応えてくれたことが胸...続きを読むを打つ。 沈家のルーツである青松訪問で町民から厚遇されたことなど、故郷を去った先祖に思いを馳せつつ、まさに故郷忘るる如しですね。 この話のきっかけが20年前に京都の裡の隅に打ち捨てられた陶器の一片からくるところが作者の好奇心がなせる業と言えますね。 惨殺 奥州にたった二百人で討伐に行く無茶振りはダメもと思ったか、新政権の混乱ぶりは相当なものだっのでしょうね。 胡桃に酒 食べ合わせの悪さに例えて細川忠興とその夫人たま(ガラシャ)との半生をなぞる。仲睦まじい夫婦の印象だったが印象が改まりました。 嫁取り奉行の小笠原少斎の一途な生き方が悲しい。
中学生のときの読書感想文指定書籍。作文書いて先生に褒められたのをよく覚えている(のでこの本をよく覚えている)
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